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2015年2月20日 (金)

はじめての電子書籍 (五)

 昨日の記事に《「解説」はともかくとして,著者本人による記述の重要な一部である「参考資料」を削除してしまっていいものだろうか.もし電子書籍という出版形態ではこれが許されるのであれば,ダイジェスト版に同じ書名をつけて売っていいことになる》と書いた.

 それで Amazon が販売している Kindle 版の購入者レビューを調べていったら,堀越二郎著『零戦 その誕生と栄光の記録』(講談社文庫) の Kindle 版も,《本電子書籍文庫版は、講談社文庫版第二版を底本とし、口絵写真・図版・解説は割愛しました》と,中に書かれているということが判明した.(評価を★一つにして「割愛」にクレームをつけたレビュワーがいるので,それがわかった)
 この本は,戦闘機の写真や図版がなければ理解不能の部分もあるだろうに,なんとまあ本当に電子書籍界では,ダイジェスト版に同じ書名をつけて販売しているのであった.

 どうしてこのような無法な商売が横行しているのか.
 電子書籍の問題点についてネット上の資料を漁ったところ,これはどうやら図版や写真に関する権利関係の問題らしい.
 知的所有権等の複雑に入り組んだ権利関係諸問題を,出版社が図版や写真を削除する (なかったことにしてしまう) ことで「解決」しているようだ.

 そのような「解決」のしわ寄せは,紙の本と同じものだと思い込んで不完全版である電子書籍を買わされた消費者にいくわけだが,そのことが購入前に消費者に告知されていれば仕方ないけれど,Amazon の Kindle 版はそれをしていない.買って読んで初めてダイジェスト版であることがわかる仕組みだ.

 他の電子書籍販売業者はどうなのかと思って,講談社文庫『零戦 その誕生と栄光の記録』を他の電子書籍販売サイトで検索してみた.
 ソニーの販売サイト Reader'sStore では,書籍の説明に《口絵写真・図版・解決は割愛しました》と明記しているが,eBookJapan,BookLive,紀伊國屋ウェブストアは全くダイジェスト版であることを消費者告知していない.

 最初は Amazon の Kindle 版だけの問題かと思っていたら違った.ダイジェスト版が売られているのは出版社と著作権者側の都合だったのだ.
 著作権者が著者本人なら,自分の著書の価値を損ねる行為は拒否するであろうに,著者が亡くなっていると,米原万理さんや堀越二郎氏の場合のように,悲しいことに著作権者が故人をないがしろにすることもわかった.
 正直なところ,電子書籍の現状がこんな体たらくだとは思ってもいなかった.
 電子書籍がこういうものだとすると,写真や図版を多用する学術書は電子書籍化できないことになる.
 なるほどね.電子書籍が新刊コミック中心なのは,このような事情であったのか.電子書籍で書架の省スペースができるかと期待していたのに,がっかりだ.

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