クレープを二度
一昨年,「無限流手裏剣」と題した記事を書いた (9/10).
白土三平の作品のタイトルが思い出せなくて,古本を探し回ったという話だった.
実はもう一つ,タイトルも作者名も忘れたコミックがあって,長いこと気になっていた.たぶん床屋の順番待ちのような状況で手にしたものだろうと思う.
寂聴尼が説くところの死に支度生き支度というか,もはや思い残すことはないと言ってから棺に入りたいというか,例えば昼飯時間帯でもほとんど客がいない十代目哲麺という不思議なラーメン屋が藤沢駅近くのバス通りにあるのだけれどその道のすぐ向かい側にあって客がいつもたくさん入っている家系ラーメン松壱家に比較すると十代目哲麺に客が入らない原因はスープなのか麺なのか一度食べてみる必要があるなあ等々,気にかかっていることは元気なうちに一つ一つ片づけていきたいものだ.
そう思ってあれこれと調べたら,件のコミックは,とり・みき の「クレープを二度食えば」かも知れないと思われた.
Amazon で検索すると,「クレープを二度食えば」が収録された単行本『クレープを二度食えば』のほぼ新品状態の古本が五百円で出品されていたので注文した.
昨日それが届いたので早速読んでみたら,ピッタシカンカン (死語) だった.
帯に《漫画家生活30周年を迎えた作者の“甘酸っぱ~い”作品のみを集めたリリカル作品集♪》とあって,惹句は《恥ずかしいマンガ 全部見せます》だ.
巻末の著者自身による解説によれば,表題作「クレープを二度食えば」は初出の連載が平成四年(1992年) で,翌五年に単行本『犬家の一族』に収録されたとのことであるから,私が読んだのは平成五年か六年だろう.
この頃,世はバブル崩壊期間に入り,「失われた二十年」の入口に日本は立っていた.
「クレープを二度食えば」のキャラの台詞に「ボディコン」が登場するのだが,ジュリアナ東京のワンレン・ボディコン・ジュリアナ扇子 (通称「ジュリ扇」) は,まさにバブル崩壊期の風俗だった.
当時の私は,企業犯罪の実行を経営者に命令されたが拒否し,そのために地方の工場に左遷島流しされて逼塞していた.それでも人間至る所行きつけの飲み屋はできるもので,その頃贔屓にしていた店の女の子が休みの日にジュリアナへ行き,買ってきたジュリ扇を手に店の中で踊ってみせたのを思い出した.
本作品中に出てくる当時の言葉には「ボディコン」の他に「パソコン通信」や狭義の「オタク」があって,それは本作が描かれた頃の時代背景から理解できるのだが,台詞に「中ボー」とあるのに,この頃からあったのかと少しばかり驚いた.すると「中」が「厨」に変化したのはいつ頃だったのだろう.
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