美少年 (四)
明けて平成二十一年.
美少年酒造は,最盛期の平成八年(1996年) 九月期には売上高25億3,125万円を計上していたが,その後は低落を続け,平成二十年九月期には売上高13億445万円にまで落ち込んでいた.
そこに事故米不正転売事件による自主回収の負担 (酒を含む食品製造業では自主回収リスクが高いため通常は製品回収費用に係る保険に入るのが普通であるが,美少年酒造が保険に入っていたかは不明) と,二十年下期の販売不振が打撃を加えた.
一方,二月十日には《大阪府警・福岡県警・熊本県警の合同捜査本部は、不正競争防止法違反 (虚偽表示) の疑いで、三笠フーズ社長、同社元顧問 (旧宮崎商店元社長) 、同社社長秘書、子会社・辰之巳の元営業課長 (元顧問の長男) 、マルモ商事社長の5人を逮捕。詐欺罪での立件も視野に入れて捜査が行われた。》(Wikipedia【事故米不正転売事件】から引用)
捜査の進展が美少年酒造社長・緒方直明を追いつめたことは想像に難くない.
なぜなら緒方は,経営が好調であった昭和六十二年 (1987年) から,事件が起きた平成十九年 (2007年) まで,三笠フーズの子会社「辰之巳」を使って毎年不正な手口で裏金を手に入れていたからである.
手口とは,まず美少年酒造が酒の原料米として仕入れた一等米を「辰之巳」に精米を委託する.「辰之巳」は実際にはその一等米を市場で売却し,三等米などの価格の低い米を購入して精米し、美少年酒造に納入する.一等米と低価格米の差額が裏金になったわけである.
緒方が手にした裏金は毎年百数十万円から二百万円程度というから,さして大胆な不正ではなかったが,これが警察の手で明らかにされたら,もう会社は終わりだと緒方は観念したのであろう.そうなる前に急遽記者会見して自ら不正を公表した.そしてただちに民事再生法の適用を申請し,全役員が退陣して,支援企業数社に再建を託した.負債金額は十九億円であった.
緒方がささやかな裏金を手にしていた陰で,三笠フーズは三等米どころか事故米を納入して,美少年酒造を食い物にしていたのであった.
「薩摩宝山」の西酒造は事故米不正転売事件の被害者として同情をかい,数億円の被害をこうむったものの,会社は持ちこたえた.しかし美少年酒造 (民事再生法適用後に商号を「火の国酒造」に変更) を消費者は見捨てた.支援企業の再建努力もむなしく,遂に平成二十五年八月一日,支援企業の一つが新たに設立した株式会社美少年へ事業を全部譲渡し,熊本西税務署へ酒類製造免許を返納して明治十二年創業の酒造事業に幕を下ろした.
(続く)
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