美少年 (三)
農林水産省は平成二十年(2008年)八月,事故米を工業用 (非食用) として三笠フーズ株式会社 (大阪市北区) に売却した.
ところが近畿農政局と九州農政局が三笠フーズに立入調査したところ,事故米を食用に転売していたことが確認されたのである.
そのため農水省は平成二十年九月五日付でこの事実を公表し,三笠フーズに販売した事故米を回収するよう要請し,三笠フーズは自主回収することに同意した.(農水省には回収を命令する法的権限がないため,「要請」という形をとった)
三笠フーズによる事故米不正転売事件の概要を示す.
この事件は三笠フーズだけにとどまらず,接着剤製造業者である株式会社浅井 (名古屋市瑞穂区),でんぷん製造販売業者である島田化学工業株式会社 (新潟県長岡市) もまた事故米を食品用途に転売していたことが判明して世情騒然とした.この三社の他に,肥料製造業者である太田産業株式会社 (愛知県宝飯郡小坂井町) が事故米を使用して肥料を製造したとして肥料取締法違反の罪に問われた.
事件の概略は Wikipedia【事故米不正転売事件】と Wikipedia【三笠フーズ】に書かれているが,結局事故米転売先の全容は明らかにならなかった.
さて三笠フーズの事故米転売先に,芋焼酎「薩摩宝山」を製造する西酒造 (鹿児島県日置市) と美少年酒造があった.この二社は大規模な自主回収を行った.
芋焼酎の醸造に必要な麹を作るのに米が必要であるが,西酒造は三笠フーズ (直接には三笠フーズ子会社「辰之巳」の営業社員) に完全に詐欺的に騙されたといってよく,良品のサンプルを提示されたから辰之巳から購入した (辰之巳との取引はこれが初めてだった) のに,実際に納入されたのは事故米だったのである.
一方,美少年酒造はマスコミの取材に対して「辰之巳とは付き合いが長く,信用していた.酒米の値段は別に安くはなく,裏切られた格好だ」と答えた.
三笠フーズの不正に関しては,農水省に対して匿名の告発があったにもかかわらず,つまり不正を知りつつ農水省は長年これを放置してきたと噂された.
ではなぜ突然に平成二十年の立入調査で発覚したか (発覚させたか) というと,三笠フーズの不正転売をこれ以上放置できない何らかの事態が生じたからと考えられるが,これについて当時の新聞報道は全く追求しなかった.追求してはいけない何らかの事情があったものと思われる.(下の引用文に示すように農水省総合食糧局に対して大規模な処分が行われたことから察する他ない.記者クラブで官庁から頂戴した情報を流すしか能のない商業マスコミの限界である)
しかし事件の主役の一人が明らかに農水省であることから,太田誠一農相が平成二十年九月十八日に辞任した.
大臣の辞任に続いて十一月二十八日には農林水産省は職員の処分が行われた.
大臣,副大臣,大臣政務官の他には,《元総合食糧局長ら退職者2名が、給与ないし退職金の自主返納。事務次官、総合食料局長等の関係役職経験者6名の計7名が減給。ほかに、総合食料局長等の関係役職経験者について、1名が戒告、9名が訓告、1名が厳重注意、7名が口頭注意となった。》 (斜線部は Wikipedia【事故米不正転売事件】から引用)
ここで一つ不思議なことがある.太田農相の後任の石破農相が,事件の責任は国にあるとして美少年酒造に謝罪したと新聞 (共同通信) は伝えたが,同じく自主回収に応じた西酒造に対して石破農相はどうしたのか.これがネット上を調査してもわからないのである.
ともあれ,農水省職員の処分でこの事件は幕引きかと思われたが,まだ幕は下りなかった.
(続く)
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