【補遺2】
昨日の【補遺1】で,農水省は事故米の用途は「工業用の糊」であるとだけ説明をしてきたと書いたが,その「工業用の糊」が何であるかは,関連する Wikipedia 項目でも明らかにされていない (執筆者が情報を持っていない).
実はこの件について,当時の J-CASTニュースに《「工業用糊に限り販売」 農水省の説明は大ウソだった》という記事が報道された (2008/9/11 19:55 掲載).
この J-CASTニュース記事は,
《農薬や毒カビに汚染された「事故米」が食用として出回っている事件で、農林水産省の説明に大きな疑惑が浮上している。農水省は「事故米」を、工業用糊や、木材の合板や集成材の接着剤の原料使用に限り販売を許可していると説明していたが、実は、国内では接着剤などの原料に米を使用することは殆どないことがわかった》
と述べ,その理由として
《森林総合研究所によれば、合板を作る際や、集成材に使う接着剤の原料に小麦を使う例はあるものの、米を使ったものは見たことがないそうだ。工業用糊や接着剤に使われないとなると、「事故米」を工業用糊などに使用を限定、という農水省の「前提」が全く崩れてしまう》
《工業用糊メーカーの大手ヤマト、不易糊工業、住友3MにJ-CASTニュースが取材すると、いずれも、澱粉糊のうち「米を原料にしているものはない」という答えが返ってきた。また、「米を原料に糊を作っているメーカーがあるという話は聞いたことがない」のだという。ちなみに澱粉糊はヤマトがタピオカ、不易糊工業はコーンスターチを原料にしている。》
と書いていた.
森林総研の誰がそう言ったか知らないが,木材工業の実際を知らないとこんなトンチンカンなコメントをして,世論をミスリードしてしまう.
次に,J-CASTニュースが取材したヤマト,不易糊工業,住友3Mは,合板用接着剤メーカーではない.合板用接着剤を作っている企業とは業界が全然違う.
また合板用接着剤は前稿に書いたように澱粉糊ではなく,尿素樹脂,尿素メラミン樹脂,フェノール樹脂だ.つまり J-CASTニュースは全く見当違いのところに取材に行ったのである.
Wikipedia の執筆者も,きちんと調査をして書くべきであった.
合板を作るときに事故米が使われていることは,国会でも質疑応答があったから,ちょっとウェブを調べればわかることなのである.
下に引用したのは,不正転売事件が起きた年の秋,国会で民主党の滝実代議士 (現在は引退) が麻生総理に対して行った質問と,それに対する答弁である.
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平成二十年十月八日提出
質問第八八号
食用に適さない汚染米の輸入及び売渡に関する再質問主意書
提出者 滝 実
食用に適さない汚染米の輸入及び売渡に関する再質問主意書
食用に適さない汚染米の輸入及び売渡に関する質問主意書に対して、平成二十年十月三日内閣衆質一七〇第八号の答弁書(以下「答弁書」という。)をいただいたが、疑問があるので再度質問する。
一 答弁書の「二について」で「米穀の買付け後に食用に適さないことが判明した場合に、当該契約の解除ができるかどうかは承知していない。」とあるが、買入受託者は政府の委託を受けて買付けを行うのに、当該米穀の売主との間の契約の内容について政府が承知していないことは許されないのではないか。
二 米穀の買付け後に食用に適さないことが判明した場合に、当該米穀に対する関税の適用はどうなるのか。食用以外の用途に使用する選択をして、その通りに使用されていた場合と、食用以外の用途に使用する選択をしたのに食用と偽装して流通させていた場合に分けて示していただきたい。
三 答弁書の「五について」で「工業用のりの原料となる米穀の潜在的な需要量」とあるが、米穀を原料とする工業用のりは扱いが難しく用途は限定されているのに、なぜ多量の米穀について工業用のりとして潜在的に需要があると考えていたのか根拠を示していただきたい。
右質問する。
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平成二十年十月十七日受領
答弁第八八号
内閣衆質一七〇第八八号
平成二十年十月十七日
内閣総理大臣 麻生太郎
衆議院議長 河野洋平 殿
衆議院議員滝実君提出食用に適さない汚染米の輸入及び売渡に関する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員滝実君提出食用に適さない汚染米の輸入及び売渡に関する再質問に対する答弁書
一について
政府が米穀の輸入を目的とする買入れを行う場合には、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(平成六年法律第百十三号。以下「食糧法」という。)第三十条第二項の規定に基づき他に委託しているところであり、同項の規定に基づき当該買入れの委託を受けた者(以下「買入受託者」という。)と政府との間で締結する委託契約に基づき、買入受託者が業務を行っている。当該委託契約においては、買入受託者と当該米穀の売主との間の契約の内容に関する条項を設けず、その内容については、買入受託者にゆだねていたところである。
二について
食糧法第三十条の規定により輸入される米穀に課される関税については、関税暫定措置法(昭和三十五年法律第三十六号)に基づき、無税となっている。
三について
米粉は、合板の製造に必要な接着剤の増量剤として使用されることがあり、当該増量剤の使用量やその使用量に占める米粉の割合を勘案して、工業用のりの原料となる米穀の潜在的な需要量を推計していたところである。
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要約すると,滝代議士が
《米穀を原料とする工業用のりは扱いが難しく用途は限定されているのに、なぜ多量の米穀について工業用のりとして潜在的に需要があると考えていたのか根拠を示していただきたい》と質問したのは,ヤマト,不易糊工業,住友3Mなどが「事故米を原料に使用したことはない」と農水省の説明に反論したことを踏まえた質問であった.
これに対する麻生総理の答弁は
《米粉は、合板の製造に必要な接着剤の増量剤として使用されることがあり、当該増量剤の使用量やその使用量に占める米粉の割合を勘案して、工業用のりの原料となる米穀の潜在的な需要量を推計》したと述べ,農水省の説明にある「工業用の糊」とは合板用の糊であることを明確にしたのであった.
Wikipedia の執筆者や J-CASTニュースが滝代議士と麻生総理の質問答弁を知らなくても,まあ仕方がないと言えるが,全国紙五紙のうち一つも,上のやり取りを事故米不正転売事件とからめて報道しなかったのはどういうことであろうか.
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