おせち雑感
小学校三年生か四年生のとき,担任の女先生 (小豆島を思い出させる昭和レトロの言葉;これを女教師というとちょっと別のジャンルの用語になる場合があるので注意が必要) が授業で「みんなのうちでは,おせち料理は何をつくるのかな」と問うたことがある.
私は,通っていた田舎小学校では,算数だろうが国語だろうが先生にどんな問題を当てられても答えられぬことがない神童だったのであるが,こらこら,この質問には何も答えられなかった.級友が「黒豆でーす」と答えても,黒豆を見たこともない私には何のことやらわからなかったのである.(煮豆は大豆しか食べたことがなかった)
なぜかというと,前にも書いたが私の母は料理のできない人だったから,年の暮れにちゃんとしたおせち料理を作るなどということはしなかったからである.
母親が料理下手な上に父親が最下級公務員で貧しかった我が家では,雑煮と一緒に正月のちゃぶ台に並べられたのは,紅白なますと煮しめだけだったと記憶している.
かなりあとになって,母が近所の奥さんに田作りの作り方を教えてもらい,これが膳に加わったが,黒豆は死ぬまで作らなかった.上手に作れなかったのであろう.今の私は黒豆が小鉢に入って眼前に出てきたら,あな嬉しや盲亀の浮木優曇華の花,千載一遇とはこのときとばかり,憎い相手にめぐりあったがごとく,器を左手に持ち,かき込むようにして食う.この際,肘を左脇の下から離さぬ心構えでやや内角を狙い,えぐりこむように食うべし.
なーにがふっくらと色艶よく炊きませうだ.親の仇だ.思い知れ黒豆,えぐりこむように食うべし食うべし.おいおい.
おせち料理について,紅白なますしか知らなくて恥ずかしい思いをした私は,このことを半世紀以上も経ったのにまだ覚えている.貧乏ってのは軽いトラウマになりますな.ばかみたいだけど仕方がない.はは.
それから十数年の星霜を経て私の伴侶となった女性が,これまた料理下手でおせち料理を作れない人であった.
雑煮と一緒に新婚の正月のテーブルに並べられたのは,手製の紅白なますと煮しめと伊達巻であった.かなりあとになって,紅白の蒲鉾が加わった程度であった.親の因果が子に報い,とはこのことである.
余談だが,「親の因果が子に報い」の口上にはいろんなバリエイションがあるだろうが,だいたいは次のようなところだ.これも半世紀以上も経ったのにまだ覚えている.
「焼野の鴉 夜の鶴 子をば思わぬ親なきものを 親は代々猟師にて 山谷巡る仕事ゆえ 殺したけものの数知れず 親の因果が子に報い 二目と見れぬこの姿 可愛想なはこの子でござい 花ちゃんや~い (あいあ~い,と声がして花ちゃん登場)」
化物屋敷とか見世物小屋ってのは軽いトラウマになりますな.ばかみたいだけど,以下同文.
閑話休題.
しかし世の中はどんどん豊かになって,年末のスーパーに買い出しにいけば,黒豆でも伊達巻でも何でも売っている.それどころかデパートではめでたさ満載のおせち料理一式を購入できる.外れクジを引いてしまうリスクはあるが,ネットで買うことも可能だ.
さてそのおせち料理の中身であるが,実際にデパートで販売されているものを見てみると,何がめでたいのかわからない料理もあるが,基本的には以下のもののようである.(Wikipedia から抜粋)
[祝い肴(口取り)]
黒豆
数の子
田作り
たたきごぼう
紅白かまぼこ
伊達巻
搗ち栗/栗金団
お多福豆
[焼き肴]
鰤の焼き物
鯛の焼き物
海老の焼き物
鰻の焼き物
[酢の物]
紅白なます
ちょろぎ
酢蓮
[煮物]
昆布巻き
陣笠椎茸
楯豆腐
手綱こんにゃく
芽出しくわい
花蓮根
矢羽根蓮根
八ツ頭
金柑
梅花にんじん
東海林さだおの漫画には,正月に上司の家を訪問した主人公が,出されたおせちの数の子を食べてしまったために上司の怒りをかうという定番ネタがあった.数の子が栗きんとんであるバリエイションもあった.古い話だなあ.
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