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2014年11月 6日 (木)

屋台のDNA (十三)

 異論があるかも知れないのを承知で言うと,立食いではない普通の蕎麦屋で単に天ぷらといったら海老天のことだ.海老がタイ産養殖ブラックタイガーだろうとなんだろうと,海老天でなければならない.
 まれに海老天のほかにかき揚げを出す蕎麦屋もあるが,その場合でも,間違っても立食い蕎麦屋と同じタマネギとニンジンのかき揚げではない.
 私が知っている蕎麦屋のかき揚げで美味しいものというと,サクラエビやシラスのかき揚げがある.いずれも静岡の蕎麦屋でお目にかかれる.
 ここでいうサクラエビは乾物ではない.シラスはシラス干しではない.どちらも旬があって,その季節になると蕎麦屋でも飲み屋でも家庭でも,かき揚げにする.特に駿河湾特産であるサクラエビは茹でてよし揚げてよしの静岡県民ソウルフードだ.
 そういう例は他の地方にもあるだろうが,一般には蕎麦屋の天ぷらは海老天だ.

 しかしこれが立食い蕎麦屋になると事情は一変する.
 立食い蕎麦屋にもレベルが存在するのであるが,まずローエンドから行く.
 ローエンドの立食い蕎麦屋で天ぷら,あるいはかき揚げといったら,タマネギとニンジンが少し入った小麦粉の天ぷらである.タマネギとニンジンの天ぷらではない.小麦粉の天ぷらだ.本来の天ぷらでは小麦粉は衣であるが,ローエンドの立食い蕎麦屋では小麦粉が堂々たる主役である.

 ここでちょっと横に逸れるが,今の若い人は自分のキッチンで天ぷらを揚げることはまず皆無であるだろう.
 年季の入った台所でなら料理も行われようが,システムキッチンの場合は汚れるのを嫌って湯を沸かすのがせいぜいだというジョークも古くからある.
 食品産業センターの,かなり以前の調査だったと思うが,その結果をみると,いまや家庭で揚げ物をするのは年寄りたちだけになってしまった.

(続く)

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