営繕 (講釈編一)
今月引っ越す先の家は暫く留守にしていた自宅であるが,大変に古い木造一戸建てで,もうすぐ築三十年という物件だ.
結婚して十年目にこれを建てたとき,住宅業者に「この家,どうですか三十年はもちますか」と訊いたら一笑に付されてしまった.安普請だから二十年がいいとこですよ,と.
以来営々二十年のローンを払い続けて完済したが,案の定,定年の少し前の二十年目に,屋根を全面的に葺き替えせざるを得なくなり,専門家の予測の正確さに深く感動したのであった.ていうか,安普請で悪かったな馬鹿野郎.
ともあれ,この家で二人の子を育てた.
今は二人とも独立して生活しているが,この家の柱の傷やへこみの一つ一つに彼らの子供時代の思い出がある.がらんとした空き家の柱の前に立っていると,何だか胸の底のどこかに熱いものが湧き上がってくるのをどうしよう.
留守の空き家にしている時って,リフォームに最適の状況ですよと言った人がいる.
何をいうか.
住みやすく快適な住宅なんてことは若い人の考えることだ.
傷だらけの床も,建て付けの悪い襖も,年寄りには大切なものなのだ.この三十年のことを,みんななかったことにしましょうなんて,よくそんなことが言えるな馬鹿野郎.
それにリフォームして次の年に死んだら大損ではないか.(← 本音)
というわけで,私と共に年老いたこの家を,いたわるように修繕しようと思う.暇だし.
(続く)
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