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2014年11月10日 (月)

屋台のDNA (十四)

 前回,《いまや家庭で揚げ物をするのは年寄りたちだけになってしまった》と書いた.
 キッチンが汚れるから嫌だというのは別として,若い人たちにとっては,煮物とか炒め物に比べると,天ぷらというのは敷居が高い料理だからであろう.特にかき揚げを上手に作れるようになるのには,ある程度の練習が必要で,失敗することが多い (そういう人向けに天ぷらミックス粉があるので,それを使えばいいのだが).

 「失敗」というのは,カラッと揚がらないということである.試みにクックパッドで「かき揚げの作り方」を検索してみられよ.すべて,サクサク揚がったのが美味しいかき揚げだとしている.「じっとりと油がしみ込んでおいしい」とか「もっちりと揚がっておいしい」とか「まるでお好み焼きのようなおいしさ」と書いている投稿者は絶無と思われる.

 ところが,そのような「じっとりと油がしみ込んで」「もっちりと」「まるでお好み焼きのよう」な天ぷらが好まれている食シーンがあって,それが立食い蕎麦なのである.
 サクッとしたかき揚げを揚げられる人は実験してみるとよい.
 その上手なかき揚げを,熱い汁の蕎麦に載せたとたん,そのかき揚げはバラバラになるであろう.
 それではだめなのである.

 東海林さだおがエッセイに何度も書いているように,立食い蕎麦のかき揚げは,食い進むに従ってモロモロと崩れていき,食べ終わりの頃に,汁だか天ぷらなんだかわからぬ渾然一体の状態になるようであらねばいけない.
 それが「へいお待ちっ」と出てきたときに既にばらばらに崩れていたのでは,かき揚げ蕎麦ではなくタヌキ蕎麦ではないか.
 せっかく十円玉を数枚余分に払ってかき揚げ蕎麦を注文したのに,タヌキに化けたのではがっかりだ.

 余談だが,ネットで検索すると,各立食い蕎麦チェーンの,かき揚げ蕎麦とタヌキ蕎麦の値段の差が一覧できる.
 コストをもとに単純にいうと「タヌキ蕎麦とかき揚げ蕎麦の価格差が大きい店のかき揚げにはタマネギやニンジンがたくさん入っている」ということであるが,例外的にタヌキ蕎麦に色々なものを入れて高い値段をつけているチェーン店もある.これは,ただのタヌキ蕎麦では利益が出ないからだろう.

 話を戻すと,サクッと揚げられた本来のかき揚げは,熱い汁蕎麦のトッピングには向かない.それ故,天ぷらを揚げる技術を有する一般の蕎麦屋では,天盛とか天ざるのように別添する以外の形では,かき揚げ蕎麦を提供したがらない.
 逆に立食い蕎麦屋では,かき揚げを「じっとりと油がしみ込んで」「もっちりと」「まるでお好み焼きのよう」にすることで,熱い汁蕎麦のトッピングに適するようにしているのである.
 客の方も,かき揚げ蕎麦に期待するのはハイカロリー (註*) の腹ごたえであっておいしさではないから,これでいいのである.

(註*) かき揚げ蕎麦の熱量をネットで調べてみると,500kcal 前後の値をブログ等に書いている人がいる.そこに例示されてかき揚げ蕎麦の画像を見ると,立食い蕎麦屋のかき揚げと大きく異なる,小さくて吸油率の低そうなかき揚げである.だから「な~んだそれほどのハイカロリーではないじゃん」と思ったら大間違い.立食い蕎麦チェーンのゆで太郎が公表しているカロリー表を見よ.かき揚げ蕎麦は 664kcal もあって,蕎麦単品ではトップに君臨するハイカロリーなのである.他の立食い蕎麦屋では,もっとハイカロリー (分析値はないが,おそらく 800kcal に迫る) と思われるところもあり,立食いのかき揚げ蕎麦は今も昔も,若くて貧しい会社員の応援歌だ.
 私は老いたので,もうかき揚げ蕎麦を食べることができない.ワカメ蕎麦ばかり食っている.しみじみと残念である.

(続く)

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