縫い物
昨日の記事「欧文が好き」に,
《委託で縫製加工をしてくれるところはないかと探したら,あった.裁縫ができなくて困っているのは還暦すぎの爺さんだけではなかったのだ.我が子が小学校に入学するはいいが,道具を入れる袋を用意しろとか,なんだかんだと学校から言われて困っている親御さんたちがいて,その全国の裁縫できないママさんパパさんをお助けする業者があるのであった.(男親は出来合いを買ってしませてしまうかも知れないが)》
と書いた.
一人で子育てをしているお父さんは,入園や就学時に必要な袋などの布製品はどうしているのだろう.
その時期になれば店でも売られるであろうし,通販で簡単に買えるだろうから,普通は「んなものはだ,買えばいいんだ買えば,ぬはははは」と言って済ませるであろう.
これに対してママさんは,専業主婦はもちろんだが,ワーキングマザーでも,布地を買って自分で作ろうとするような気がする.
買えば簡単だけど,もしお友達と同じものだったら子供がかわいそうだし,わたしも恥ずかしい.それが原因で麻里子がイジメられたらどうしよう.ほかのママさんたちだって陰でわたしのことを悪口言うにきまってる.あの人,育児放棄よ育児放棄よ,愛がないんだわって.ああもういや.死にたい.
唐突に麻里子が登場したが,私は篠田麻里子さんのファンなのである.
それはともかく,縫い物が原因で死にたいとまで思い詰めても誰が責めることができるだろうか.
かくなる理由で,疲れて帰宅したワーキングマザーは夜中にミシンに向かうことになる.
経済的事情でミシンを買えないWマザーは手縫いするしかないが,耳にするところではこれはかなり大変だという話である.よく知らないが今の学校は,作って子供に持たせてやらねばいけないものが多いのだという.
夕食のあと,お母さんは針に糸を通すが,疲れで目がかすんで針が見えない.
悲しい母は,唐突に出てきた麻里子を抱きしめて泣く.ママを許してママを許して.
ママは,もうすっかり疲れ切ってしまって縫えません.三日とろろ美味しうございました.わけわかりません.
ところで,ネットの質問掲示板に,一人のママさんから「子供の学校用品を今は手縫いしているのですが,これがかなり大変なのでミシンを買いたいです.一万円台のミシンでいいでしょうか.それ以上の値段のミシンを買いたいとは専業主婦なので言いにくいです」との趣旨の質問が寄せられた.
これに対して,たぶん男と思われる回答者たちが寄ってたかって叩きまくっていた.
いわく,そんなミシンはただのオモチャだ.
いわく,ミシンの値段は耐用年数だ.一万円のミシンは一年しかもたない.五万円のミシンは五年使える.五万のミシンが買えないなら手縫いしろ.
なにを言っておるか,おまいらは.必要なものを買うのにも遠慮する専業主婦に惻隠の情といふものがないのか,おまいらは.
おまいらのような根性悪は,自分の妻がミシンを欲しいと言うと,実用的なミシンは高いから手縫いしろと言うに決まっている.そうに決まっているっ.子供の学校用品なんか,おまいがミシンを踏んで作れっ.あ,今のミシンは電動ですか.電動ミシンを踏んづけてはいけません.
話はまた変わって,昨日の記事に書いた欧文プリント布地を発作的に購入した私は,実は自分で縫うことを意図して,Amazon でミシンを探したことを告白しておこう.
検討の結果だが,売れ筋ランキング一位のミシンは「ジャノメ コンパクト電動ミシン【sew D`Lite】JA525」という製品であるが,聞いて驚けその価格は¥6,737なのである.
なんと一万円以下でミシンが買えるのですよ奥さん.
ただし,ユーザーレビューによると,このミシンはほんのちょっとした縫い物にしか使えないようではある.タオル地のような厚いものは歯が立たないという.
では一万円台の製品はどうかというと,好意的レビューが増えはするが,子供が学校に持っていく雑巾を縫えないという実用性不足の点ではさして変わらない.
しかし,二万円台の製品になるとユーザーレビューが突如高評価になるのである.「シンガー 実用電子ミシン【MONICA pixy】5710」(¥25,600) を見よ.聞いて驚けメーカーが「実用電子ミシン」と高らかに宣言しているのだ.てことは実用でないミシンもあるわけで,そういうミシンは作らないで欲しいです.
しかも Amazon には五万円のミシンは一機種しかなく,その上の七万円クラスの機種は「プロ用」とうたわれている.アマチュア用最高機種が五万円ということですね.
前記の質問掲示板の主婦さんだが,質問掲示板に巣食って女を叩いて喜んでいる男は,あちこちから情報をかき集めて知ったかぶりに嘘を書き込む馬鹿野郎なのだ.件のママさんは,掲示板で質問なんぞしていないで友達にたずねるのがよかったのである.
私の母は,洋裁ができなかった.簡単な縫い物はできたが,和裁というほどのこともできなかった.
なにしろ戦時中の育ちで尋常小学校卒だから,洋裁なんて習う機会がなかったのだろう.だからもちろん私の家にミシンはなかった.
よくわからないのだが,昔の娘たちは上級学校に進むとミシンを習ったのだろうか.それとも洋裁をできる母親が娘を教育して,嫁入り道具にミシンを持たせるということがあったのだろうか.同じ学級の,少し裕福そうな家に遊びに行くと,和室の南側の廊下の端に足踏みミシンが置かれていて,それはちょうど小津安二郎作品に描かれる中流家庭のような雰囲気であった.
私が小学校に上がったとき,ランドセルの横にぶら下げる白い袋を母に作ってもらった.
その袋の本来の用途がなんだったか覚えていない.ただ級友が風邪で休んだりすると,先生がその子の給食のコッペパンを持って行ってくれというので,ワラ半紙にコッペを包み,白い袋に入れて,夕日の道をとぼとぼ歩いて届けに行った記憶はある.
あとにも先にも,四十半ばで逝った母が私のために縫ったものは,その袋一つだけであった.
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