不思議だ
NHKの朝の連続ドラマ『マッサン』の評判がいいのだそうで,物は試しで私も一度見てみた.週刊文春のコラムで能町みね子はヒロインをけなしていたが,別にけなさなくてもいいのにと思った.しかし毎日見たくなるほどの美人かというと (以下省略)
NHKが竹鶴政孝をドラマのモデルにするのはいいが,当然,竹鶴がウイスキーの製法を伝えたとされるA社のことに触れるわけだ.というか,もう触れているようだが.
私たちの世代の人間は,昭和五十年代の初めにA社のウイスキーBを巡っておきた事件を覚えている.
A社の社員が,Bのブレンド処方を暴露したのである.今でいう内部告発であった.
当時まだ高級ウイスキーの地位にあったBは,実はカラメルで着色して添加物を入れたクズ酒だったのである.ほとんど合成酒といっていいようなものであった.これは衝撃的な事件だった.
私が東京で学生生活を過ごしたのは昭和四十三年から四十七年である.
昭和四十三年に私が布団一つで上京し,中野にあった学生寮に入ると,新人歓迎会が行われた.先輩がブランデーグラス (酒屋がくれる販促品) にドバドバと茶色い液体をそそいでくれて,この時に私は実物を初めてみたのだがテレビCMで見たことはあり,先輩はこれがA社のウイスキー「○○○」だと言った.
その歓迎会で「駆けつけ三杯だ,まあ飲め」と言われて三杯飲み,反吐を吐いてつぶれた.よく死ななかったものだ.
昭和四十年代のA社は,学生や安月給会社員向けの低級酒を次から次に新製品として売り出した.それらの低級な酒はみんな今はもうないし,その名も忘れてしまったが,下宿で友達が集まって宴会するときは,もっぱらそれらのクズ酒であった.
しかしスナックバーに行くと,客がリザーブしたボトルの棚には角瓶と白札が並んでいて,一番上の棚には数本のBが燦然と輝くように置かれていた.
その頃からA社は既に一流企業だったが,それに比べると竹鶴が起こしたニッカは格下の会社で,「A社の○○○の方がブラックニッカよりやっぱ少しうまいなあ」なんて我々は言っていた.○○○もブラックニッカも同じクズ酒なのに,私たちは本当に馬鹿だった.
そういう馬鹿の眼から見ると,Bは高級酒中の高級酒中であり,憧れであった.私は会社に就職して初月給でBを買い,なめるようにして飲んで,ああこれがBかと感動した.私は本当に馬鹿だったのだ.
それから数年後,世間を震撼させた内部告発によれば,Bはただのアルコールに色と香りをつけたものだったのである.
この告発のあと,当時の日本社会党の議員が,こういうものをウイスキーと称するのは不当であるとして国会で質問したりしたが,結局うやむやに終わった.
不思議なのは,今のネット上を探しても,あの内部告発のことに触れた資料が見つからないことである.きれいさっぱり,まるでなかったことのようだ.
上記の社会党議員の国会質問に関する資料は存在していて,これは簡単に見つかるのだが,その元になった事件のことが痕跡もなくなっている.どうなっているんだろう.
(ちなみに,A社はもうBを製造していない.Bをリニューアルした似た名前の酒は今も売られているが,それがクズ酒かどうかは知らない.飲む気も起きない)
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