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2014年10月27日 (月)

屋台のDNA (十一)

 私見だが,前回に挙げた「かえし」の例では,ヒゲタ醤油のサイトに掲載されているものが標準的なところではないかと思う.
 それに対して,前稿で示した料理サイト上で披露されている料理自慢たちの「かえし」は大半が甘すぎるのではないか.
 蕎麦は,香りがどうのこうのと言うものの実際のところは,ほのかな香りしかないものだ.味も然り.だから盛り蕎麦のように,たぐりあげた蕎麦の尻尾に,ちょっとだけ猪口の蕎麦つゆをつけて食う.そうしないと,鰹出汁の強い香りと甘辛い醤油と砂糖の味のために,何を食っているのか全くわからないことになる.
 盛り蕎麦はそれでいいが,かけ蕎麦は汁にどっぷりと蕎麦が浸されて供されるから,食う者の方で味の調節ができない.甘辛すぎる汁の蕎麦は,別に蕎麦でなくてもいいのである.冷麦でも食べてなさい.

 特に,例示した「かえし」では,
  【ネットから採取した例 1】
  醤油                1000cc
  味醂                1000cc
  砂糖                300g
がすごい.ほとんど関東とか,濃厚甘辛味付け地帯である静岡県中西部のすき焼きである.このレシピをみた人は目を疑うだろうが,しかし実は,湘南の大船軒を源流にする戦後の東京の立食い蕎麦の汁もこんなもんなのである.

 余談だが,鰹出汁というものは何でも鰹出汁の香りにしてしまう点でニンニクに似ている.パスタやピザにタバスコをかけると何でもタバスコ味になるが,それにも似ている.一般の蕎麦屋が「うちの汁は出汁をおごってます」みたいな蕎麦つゆを出してくるのは,見識としていかがなものかと思う.
 群馬にいる私の姉に,麺類のつゆの出汁は何を使っているか訊いたら,シイタケだという.そういえば,最近の観光客相手に繁盛している水沢うどん店のつゆは市販のめんつゆのようなものであるが,昭和の昔,水沢うどんが有名になる前の小さな店ではシイタケ系統の出汁であった.なるほどねと思う.鰹出汁の香りは邪魔になることがあるのだ.

 醤油メーカーが東日本で各社それぞれの「めんつゆ」を販売しているが,これらはみな東京風の甘辛味だ.これは割り下のようなものであって,蕎麦つゆに使うのには,私のような昔人間は今でもなじめない.
 そういう全国ブランドと違って,甲信地域と一部の関東地方の限定商品であるため東京の店頭で見かけることはほとんどないが,山梨県の企業である株式会社テンヨ武田が製造販売している「ビミサン」という出汁醤油がある.
 同社のウェブサイトの「ビミサン」の商品説明に,《「甘味」というのは、一度加えてしまうと元に戻せません》と書かれている.まことに見識である.

 同社サイトには《テンヨのビミサンは、昭和39年(1964年) の当初、そばやうどんなど、麺類のつゆとして生まれました。その頃は、つゆを作っているメーカーはほとんどなく、主婦の方々は自宅でつゆを作っていました》ともある.そのとおりであって,ビミサンは当時の関東地方の家庭で作られていた甘辛くない蕎麦つゆの味を今に伝えている.ビミサンは屋台の蕎麦屋のDNAを持っていないのである.

(続く)

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