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2014年10月 5日 (日)

女の講釈

「調教」「姦」「淫」などなどの言葉が躍る,おどろおどろしいアッチの方向に行っちゃった人々が読む小説分野があって,ひょんなことから,そのジャンルに作品を供給している作家のひとりに 黒澤はゆま というかたがいることを知った.昨日その名前を初めて聞いた.
 ひょんなこと,というのは,「男子厨房に入るべからず」を検索していたら「はゆま荘」と題した黒澤はゆまさんのブログがあり,それに《男子厨房に入るべからず? 》という記事が載っていたのである.
 どんな記事かと言うと,冒頭に《男子厨房に入るべからずという言葉があります。女性が料理し、男は食べるだけというのが、日本の伝統的家族生活であるという印象を、この出典不明な言葉は作り上げてきました》とある.
 まことにその通りであって,「男子厨房に入るべからず」と言う言葉は,実体のない「印象」にすぎない.
 逆にこれは,日本の男たちが実際には昔から,料理をしてきたことの裏返しであると思われる.
 この記事で黒澤はゆまさんが言及しているのは武士階級のことだが,そもそも厨房なんてのがある家に住んでいたのは,社会の上層に位置する一部の人々であった.
 例えば江戸期.江戸の町は独身男ばかりでウジがわいていたのであるが,彼らの住みかである長屋にはもちろん厨房なんかなかった.土間の七輪で,自分で煮炊きして飯を食っていたのだから,「男子厨房に入るべからず」なんぞは別世界の話であったわけだ.

 さて料理好きな男には,どういうわけかわからないが,薀蓄たれが多い.
 これに対して女は黙々と料理する.食い物の話が多い女は食うばかりで料理しないイメージがある.「食べログにでてたあのお店で女子会しましょ,きゃぴきゃぴ」みたいな.
 日経新聞のコンテンツ《列島あちこち 食べるぞ!B級グルメ (略称「食べB」)》は,日経の特別編集委員・野瀬泰申氏と,「食べB」同人 (常連投稿者) の皆さんの投稿でできている.
 その同人の一人に「いけずな京女」さんという,少し知られたブロガーがいる.そのいけずな京女さんが「食べB」第194回で,七味唐辛子についてこんなことを書いている.

 《京都はうすくち醤油を使うので「香り・風味」を大切にし、柚子・紫蘇・海苔など風味原料を多く使用。江戸は濃口醤油のタレとかえしでそばを食べるために、辛さを強調したパンチのあるブレンド。

 はて《江戸は濃口醤油のタレとかえしでそばを食べる》とはなんのことであろう.
 Wikipedia【かえし】から引用する.
かえしとは「煮かえし」の略された物で、蕎麦汁(そばつゆ)に使われる調味料。このかえしを出汁で割って蕎麦汁が作られる。
醤油に砂糖、味醂(場合によっては日本酒など)を加え、しばらく寝かせる事によって作られる

 いけずな京女さんによると,この「かえし」と濃口醤油のタレを合わせて蕎麦つゆを作るみたいに聞こえるが,濃口醤油を用いて作ったタレを「かえし」というんじゃないのか.《江戸は濃口醤油のタレとかえしでそばを食べる》ってどこから出てきた話なのか.『美味しんぼ』に蕎麦つゆの話があったような気もするが.

 それから,《江戸 (の七味唐辛子) は濃口醤油のタレとかえしでそばを食べるために、辛さを強調したパンチのあるブレンド》もどこからわいて出た話だ.
 狭い京都の町ではみんなが清水寺の門前に七味唐辛子を買いに行ったのかもしれないが,箱根のこちら側では江戸時代から七味唐辛子売りという行商があって,基本的に客の注文で調合して売っていたのである.
 もちろん商いの大きな有名店はあって,浅草寺門前の「やげん堀」では唐辛子,焼唐辛子,けしの実,麻の実,粉山椒,黒胡麻,陳皮を七味と称していた(*)が,行商では別にそれに限ったものではなかった.七味売りの行商は,私の郷里の群馬県では昭和三十年代中頃まで行われていて,私の記憶では道端にずらりと並べた薬味入れの箱には,紫蘇も胡麻もあったし,山椒は粒と粉を選べたものである.客はその中から七種類を選び,調合割合に希望があれば,これとこれを多めにして,などと注文をつけて作ってもらったのである.だから「江戸の七味はパンチのあるブレンド」などと抽象的なことを言われても何のことやらわからない.
 七味売りの行商みたいな古いものを,いけずな京女さんはご存じないのだろう.あるいは食い物話を書くのは好きでも,リアルな料理と食材に関心はない人なのかも知れない.
 こうして「江戸の七味は辛さを強調したパンチのあるブレンド」という,若い人の根拠のない思い付きが,いつしかネット上に流布定着していくのだろう.残念なことである.

(*)
★京都清水寺門前の七味屋では,唐辛子,山椒,黒胡麻,白胡麻,紫蘇,青海苔,麻の実の七種である.いけずな京女さんが京都の七味に入っていると書いている柚子は,この老舗では七味のうちに入れていない.
★香辛料メーカーの全国ブランドがどうなっているかというと,S&Bエスビー食品株式会社の七味の原材料表示は以下の通り.やげん堀と京都風の折衷配合になっている.
  赤唐辛子、黒ごま、ちんぴ、山椒、麻の実、けしの実、青のり
やげん堀では唐辛子は「唐辛子」と「焼唐辛子」を調合しているが,これでは原材料表示としては六味になってしまう.そのため青海苔を入れて七味にしているのだと想像される.
★同社製品には,七味唐辛子と別アイテムで「ゆず入り七味唐からし」がある.
★ハウス食品株式会社は,ウェブサイトでは原材料を公開していない (まことに不見識である).ただし,麻の実を「しょうが」に変更したとは書かれている.

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