経木について
このブログの右サイドバーの項目に[検索フレーズランキング]がある.たぶん@ニフティの検索窓と連動しているのだと思うが,これに「片原饅頭復元」というキーワードが入っている.(9/10 現在)
私がかなり前にこのブログで「片原饅頭」について書いた記事があるのだが,何人の人々が検索したかは全くわからないが,その検索結果にヒットしたということであろう.検索結果の十番目だからかなり上位だ.
それはそれとして検索結果の七番目に,埼玉県人である猪原賽というかたの NewsACT というブログの記事がヒットしている.筆者は漫画原作者らしい.
記事のタイトルは《164年の伝統が途絶えていた”幻のまんじゅう”が復活!群馬・前橋「片原饅頭」》である.
で,記事の中ほどに次のような文章がある.
《ふかし酒まんじゅうなので、くっつかないよう下面には「へぎ」が貼ってあります。》
下記の話の都合上,猪原賽さんの記事を読んで頂くとありがたい.
猪原賽さんが書いている「へぎ」とは何か.
漢字で書くと「経木」であり,薄い木の板をいう.
厚みは様々で,昔の駅弁とか折詰のフタに用いられていたくらいの,厚さ一ミリほどのものから,鉋で削って作ったかなり薄いものまである.木材加工産業では「経木」ではなく「突き板」と呼ぶ.柔軟性があるくらいの薄い経木は,古くから紙の代替や包装材料として用いられてきた.
無論「経木」の正しい読みは「きょうぎ」であるが,私の郷里の群馬では,これを「へぎ」と読む.
私は前橋市の高校を卒業して東京の大学に進学したのであるが,東京に出てきてすぐに経木の読みは「へぎ」ではなく「きょうぎ」であることを知った.
方言にも色々あって,経木を全く別の単語,例えば「すちゃらかちゃん」と呼ぶのであれば,これはもう由緒正しき方言であり,方言辞書に「すちゃらかちゃん=経木のこと」と記載されるべきものであろう.
しかるに「へぎ」はどうかいうと,経典を意味する「経」に「経(へ)る」の訓「へ」をあてた誤読である.「経木」は「お経を書く木」の意味である.
余談だが,新潟名物「へぎ蕎麦」の「へぎ」は,漢字で書くと「片木」または「剥ぎ」のようで,経木よりもかなり厚い木の板で作った容器のこと.越後ではこれに蕎麦を盛るから「へぎ蕎麦」というのである.経木とは関係ない.
閑話休題
「へぎ」とは「経木」の,誤読であるという話だった.
だからこれは方言ではなく,単なる誤読が群馬県では一般化しているということなのである.
田舎から都会に出てきた十八歳の私はそれを知って恥じ,以来人前で「へぎ」と言ったことはない.
しかるに,ここに堂々と猪原賽さんがブログに「へぎ」と書いているのである.
しかも書きっぷりから想像するに,猪原賽さんは「へぎ」が「経木」の誤読であることをご存じないようだ.
これで越後名物「へぎ蕎麦」の「片木」でも「剥ぎ」でもない,「経木」の誤読「へぎ」が,群馬だけでなく埼玉県にも広がっていることが分かった.
さて希望的観測だが,栃木県のほうでも「へぎ」という言葉があるとするなら,そこまでいけばもう「へぎ」は北関東方言といっても宜しいのではないかという気がしてくる.調査してみようと思う.
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