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2014年9月28日 (日)

焼き飯 (補遺二)

 一昨日の記事で《チャーハンは日本風の中華料理であり》と書いた.
 昭和四十三年に私は上京して,西武新宿線の沼袋駅に近いところに二年間住んだ.沼袋駅のすぐ近くに大衆中華料理屋があり,店の名は「大陸」といった.高校生時代には外食なんかしたことがなかったので,最初に「大陸」に入るときには,中華料理ってどんなメニューがあるのかも知らず,恐る恐る店の引き戸を開けて入ったのを覚えている.

 この店にはよくお世話になったが,ここで食べたものといえばラーメン(五十円) か餃子ライス(八十円),あるいは野菜炒めライス(百円) の三品だけだった.チャーハンを食べなかったのは高かったからである.値段は百二十円であったか,百三十円であったか,とにかくどうしてそんな値段になるのか理解できなかった.今風に言うと,コスパ悪すぎだと思ったのであった.

 しかもよく見ると,チャーハンには,蒲鉾とか鳴門巻きを小さく刻んだものが入っている.だけど蒲鉾や鳴門巻きって日本の食べ物ではないか.鳴門巻きは,断面が鳴門海峡の渦潮模様だから鳴門巻きという.だとすると中国にも淡路島とか瀬戸内海があるのだろうか.

 しかし更に考えてみると,ラーメンには浅草海苔の切れ端が一枚と,薄く切った鳴門巻きが載せてある.浅草海苔は日本の食品だとばかり思っていたが,中国にも浅草があるのか (余談だが,日本の旅行業者が「中国の浅草」と呼ぶ観光地が上海にある).
 ここに至って私は,野菜炒めとか,もやし炒めは,冷静に観察するとどこが中華なのか皆目不明であることに気が付いた.大衆中華料理屋の赤い暖簾や看板には必ず「中華料理○○(店名)」と書いてあるが,「これは確かに中華料理です」といえる料理は品書きに一つもないのであった.

 後年,横浜に住むことになり,時折中華街に出かけて広東料理や,店の数は少ないが北京料理や上海料理を食べることができた.そして,それまでは街中の大衆中華料理も中国の料理だと誤解していたのだが,あれは実は中華を騙る日本の料理だったと,ようやく理解した.鳴門巻きの一件でなんだか胡散臭いとは思っていたが.
 昭和三十年代,焼き飯がいつの間にかチャーハンと呼ばれるようになった時代に,炒飯の日本化が完了した.それは中華料理の炒飯とは異なり,蒲鉾や鳴門巻きや竹輪が入っていて,香り付けに日本醤油を使用し,皿に丸く盛り上げたチャーハンのてっぺんに,あろうことか紅生姜の千切りが一つまみ乗っかっていたのであった.牛丼を見よ.洋食でも中華でも,千切り紅生姜こそは日本化の証なのである.
 ついでにいうと,カレーライスの皿に福神漬とラッキョウ漬を添えたとき,イギリス料理であったカレーの日本化が成就した.そして,今はもうない (と思う) が,某社が「咖喱炒飯の素」を発売したとき,大東亜共栄の理想が立ち上げられたのである.うそ.

 洋画を観ていると戯画化された日本が登場することがある.古くは『ティファニーで朝食を』や『007は二度死ぬ』などがそうだ.
 映画は笑って許せても,食い物のことはそういかないことがある.隣国の人が鉄火丼を丁寧にかき混ぜてから食べるのを見ると,大抵の日本人は不愉快になるのではないか.
 なのに私たちは,グチャグチャ鉄火丼と同じことを諸外国の料理に対して平気で行っている.諸国民の固有の食文化なんぞ尊重する必要はないというのも一つの立場ではあろうから否定はしないが,それならそれで諸外国の固有料理を日本化したときは,それとはっきり分かるような名前に変えたほうがいい.イタリア人に「パスタをどうぞ」といって納豆スパゲティを出したら彼がどう思うかということである.「ピザをどうぞ」といって納豆ピザが出てきたら彼は泣くのではないか.
 大体においてクックパッドにたむろする日本の女たちは,何にでも納豆とキムチを入れる.納豆パスタ・ピザは上に述べたが,キムチピザとキムチパスタも既に存在する.究極はキムチ納豆だ.

 私は北関東の生まれで毎朝納豆を食べて育った.現在は尿酸値の関係で食べるのを控えているが,納豆は大好物である.その私が言う.隣国の大統領がキムチ納豆の存在を知ったら,キムチ納豆が内包する歴史認識を問題視するに違いなく,それは日韓関係の重大な障害に発展するであろう.発展しないですね.そうですか.すみません.

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