遺書を改竄してはいかんだろう
昭和時代回想業界なんてものがあるとすれば,業界一位の座は泉麻人に違いない.
業界二位はたぶん西岸良平だが,三位は誰だかわからないし,泉麻人も昭和のことばかり書いているのではないが.
泉麻人『昭和40年代ファン手帳』(中公新書ラクレ;2014年6月10日発行) を購入.
泉は昭和三十一年生まれだから,昭和三十年代のことについて直接の記憶はないだろう.その点でこの『昭和40年代ファン手帳』は,泉の記憶に基づく確かな事柄が書かれているだろうと思われた.
ところが,である.泉は本書の p.100-101『正月の円谷ショック』に,東京オリンピックのマラソンランナー円谷幸吉の遺書を記載して次のように書いている.
《父上様、母上様、3日とろろ美味しうございました。…(以下略)》
誰でも一読して驚くであろう.「3日とろろ」とは一体何事であるか.
円谷幸吉の家族に宛てた遺書は便箋にペン字縦書で,実物は円谷の出身地である須賀川市にある円谷幸吉メモリアルホールにある.ネットでは,写真撮影した画像を,このサイトで確認できる.
円谷幸吉は昭和十五年生まれで,いわゆる戦中派世代である.その人物が遺書に特別の理由なく「3日とろろ」などと書くわけがないではないか.調べるまでもなく「三日とろろ」に決まっている.
泉麻人は不思議なことを書くものだとネットを少し調べてみると,誰が最初に「3日とろろ」という妙な書き方を始めたのか不明だが,「3日とろろ」と書いているブログもある.泉麻人はこれをコピペしたのであろうか.
また,泉が記載した「円谷幸吉の遺書」には,原文にない句読点が打たれているが,これについてのキャプションはなく,ネットからのコピペを疑わせる.(その点で,Wikipedia【円谷幸吉】も「遺書の全文(原文ママ)」と書いておきながら,句読点が原文通りでない)
冒頭に「『昭和40年代ファン手帳』は,泉の記憶に基づく確かな事柄が書かれているだろうと思われた」と書いたが,資料にあたらずコピペで書いた本では信用できぬ.ごみ箱行き.
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