« 減塩食 (三) | トップページ | 減塩食 (四) »

2014年9月15日 (月)

トホホ教科書

 かつて「卑下」の語義は「劣ったものとして自らをいやしめること」であった.
 これは明鏡国語辞典からの引用であるが,しかし明鏡は,挙げている用例が「自己を卑下する」で,これは用例として全然だめである.なぜなら「卑下」という言葉で「いやしめる」対象はそもそも「自己」に限定されるので,「自己を卑下する」と書いたのでは,「自己」が二重になってしまっているからである」

 広辞苑(第六版) はもっとだめで,次のように書かれている.
《(1)自分を劣ったものとしていやしめること。へりくだること。謙遜。源氏物語紅梅「さりとて思ひ劣り、―せむも、かひなかるべし」
(2)いやしめ見下すこと。

 このように,誤用である(2)も語義として挙げてしまっている.
 言葉の意味が時代により変化するのは仕方ないから,それを近年の用法として辞書に書いてもいいが,辞書は規範であるからして「この語義は元々は誤用である」と書いてもらわねば困る.
 しかし,規範であることをやめた広辞苑みたいな辞書があるせいであろう,おそらく平成になってから,広辞苑における二番目の語釈が一般化してしまった.
 例として Wikipedia【B級】から引用する.
B級は、様々な事物に於いてその程度を表す表現として用いられており、下に述べる様々な事物の評価に用いられる。ただし俗語の常として、発祥は映画制作に絡むとはいえ俗語的用法では不明確な部分もあり、その定義する範疇には揺らぎを含んでおり、例えば映画では「B級映画」や「B級ホラー」などジャンルのように扱われ映画評論家などが特定の作品を指して「B級」とすることはあっても、制作筋や同作品愛好筋がB級と評しているかどうかは別の問題である。
ニュアンスとして、一級品に及ばないという卑下(ひげ:程度が低いものとして蔑んでいること)の意味合いと、A級(=高品質だが高価)に比べて費用対効果が優れているという自負の意味合いがあるが、後者は含意としては存在するものの、それのみで使われる傾向は弱い。専ら「強い感銘を受ける程ではないが、どういう訳か意識せざるを得ない」ような個性を持っている場合などに好んで使われる傾向がある。

 昭和ノスタルジーと言わば言え.私はこういう誤用を見るとほんとに平成の世の中が嫌になるのである.

 さて話はかわって,というか上に書いたのは話の枕であり,ことは「B級」についてである.
 Wikipedia【B級】にあるように,最初に「B級」が使われたのは映画の分野であったが,それにすぐ続いて「B級ニュース」という言葉が現れた.これを最初に使ったのは泉麻人であったように記憶している.
 それからかなり遅れて「B級グルメ」が登場した.昭和の終わり頃であったろうか.

 で,「B級ニュース」だが,これは「情けな感」があるとか,「トホホ」なものが上質である.
 昨日の報道から一つ例示しよう.

 タイの某出版社が,専門学校向けに基礎数学の教科書を作成した.
 その出版社のデザイン担当者が,その教科書の表紙に使う写真画像をネットで探したところ,ちょっといい感じのがあった.
 それは眼鏡を掛けたスーツ姿の女性が出席簿のようなものを見ているというもので,いかにも(男の)若者の勉学意欲をそそるであろうとデザイン担当者は考えたのだろう.
 それはそれでいいのであるが,彼はこの画像を教科書の表紙に無断使用してしまった.その上,元の画像では女性が手に持っている書類の表紙に「生徒出席簿」と書いてあるのを消して,タイ語に書き換えて改竄した.

 これがすぐにネット上で指摘されてバレてしまったのであるが,その「眼鏡を掛けたスーツ姿の女性」は,蒼木マナさんという日本のAV女優であった.
 いわゆる女教師モノであるが,問題の画像をみると,あまり基礎数学の先生という印象ではない.どちらかというとミスキャストだ.
 あーそのことはとりあえず横におくとして,この教科書,画像無断使用が問題なのかAV女優だからいけないのか知らぬが,その数学教科書はタイ当局によりあえなく回収されてしまったとの報道であった.(読売,毎日ほか.ただし新聞では女優さんの名前までは報道されていない)

 ね,基礎数学を学ぶタイの青年が日本のAV女優さんについてもよく学んでおり,たちどころに画像無断使用を指摘するあたりがいかにもしみじみとしたトホホで,いいB級ニュースでしょ?

|

« 減塩食 (三) | トップページ | 減塩食 (四) »

新・雑事雑感」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: トホホ教科書:

« 減塩食 (三) | トップページ | 減塩食 (四) »