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2014年8月 2日 (土)

愉快でない啖呵売

 昨日『男はつらいよ』から第八作『寅次郎恋歌』を再鑑賞.
『男はつらいよ』全編の中からベストスリーを選べといわれたら,多くのファンは『寅次郎恋歌』をその一つに入れるだろう.
 この作品あたりから寅次郎は,それまでのフラレ役から,マドンナから思いを寄せられる人物に変貌していくのであるが,その転換点の大役を池内淳子がつとめたことに,還暦過ぎの爺たちはさもありなんと納得するのである.
 第十一作『寅次郎忘れな草』で,とらやの面々とリリーが,茶の間でこれまでの寅の恋の数々について盛り上がる.そのとき,ただ一人だけ寅次郎が遠い目をするのが,池内淳子演じた六波羅貴子であることは周知のことである.

 ただ,『寅次郎恋歌』の記念すべきマドンナを演じた池内淳子がかわいそうであったのは,脇役 (博の父親) に志村喬が配されたことであったろう.
 俳優としての格が違うとはいえ,志村喬が「安曇野の農家の庭先に竜胆が咲き,家族が夕飯を食っているのを見た」と訥々と話すシーンが『寅次郎恋歌』のハイライトになってしまったからで,これでそのあとの寅次郎と貴子が庭先で語り合うシーンがぶっ飛んでしまったのであった.

 で,ここから全く別のことに話は飛ぶ.
 物語の結末に近く,寅次郎が道端で啖呵売をしているときに「助平の始まりは小平の義雄」と定番の啖呵を語る.
 小平義雄は「小平事件」の犯人であるが,以下に Wikipedia《小平事件》 から一部抜粋する.
太平洋戦争末期から敗戦直後の東京において、言葉巧みに若い女性に食糧の提供や就職口の斡旋を持ちかけ、山林に誘い出したうえで強姦して殺害するという手口で行われた連続事件である。

 戦争中の小平の行為については小平自身の証言がある.同じく Wikipedia《小平事件》から引く.
「新評」1971年(昭和46年)1月号、予審調書:「上海事変当時、太沽では強姦のちょっとすごいことをやりました。仲間4、5人で支那人の民家へ行って父親を縛りあげて、戸棚の中へ入れちまって、姑娘を出せといって出させます。それから関係して真珠を取ってきてしまうんです。強盗強姦は日本軍隊のつきものですよ。銃剣で突き刺したり、妊娠している女を銃剣で刺して子供を出したりしました。私も5、6人はやっています。わしも相当残酷なことをしたもんです。」

 寅次郎の啖呵売はシリーズの他の作品にもいくつも出てくるが,「助平の始まりは小平の義雄」は,猟奇殺人を連想させて嫌な思いがするのを禁じ得ない.

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