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2014年7月 9日 (水)

ゴンドールのサラダ

『作りおきサラダ』という書名に引かれて主婦の友社のヒット本を購入した.
 入院中に出た新聞や週刊誌の書評でほめられていたことも購入動機である.
 届いた本を手にとって見ると,表紙に「おかず、おべんとうに 野菜たっぷりの常備菜120品」と書かれていた.

 あらためて考えてみると,サラダってかなり漠然とした料理名だ.
 百科事典にあたってみてもよくわからない.おおかたの向きはサラダと野菜を結びつけてイメージするだろうが,スーパーで売られているマカロニサラダなんぞはほとんど野菜が入っていない.(野菜たっぷりのマカロニサラダはうまくないと思うし)

 こうなるともう言った者勝ちだ.
 だから主婦の友社『作りおきサラダ』の手柄は,作ってすぐに食べるものだと思われがちなサラダを,常備菜と言い換えたところにあると思う.
 ただし,この本がいう常備菜はただの常備菜ではない.茶色い煮しめとかアサリの佃煮とか伽羅蕗ではいけない.ましてイカ塩辛なんかは論外.サラダというからには洋風で,彩り明るく,すこし食卓が楽しくなるようなものでありたい.
 といいながら実は『作りおきサラダ』に掲載されているレシピはなんの変哲もないものだ.しかし,この本の書き手が書きたいのはレシピではないからそれで構わない.本書の主張は,作りおきの常備菜をテーブルに並べて,それだけで結構楽しい食卓に演出できますよホラ,ということなのだ.

 本書が提案する食卓演出のコツは,常備菜の容器にある.
 まず第一に,白くて直方体のホーロー保存容器.サイズは工夫されていて,いくつ冷蔵庫に入れても無駄な隙間ができないようなものでなくてはいけない.本書の記述の中に指定されているわけではないが,本書のフォロワーたちによれば,無印良品の製品でキマリらしい.
 このホーロー保存容器に加えて,ガラス製の保存瓶やココットのような小さい陶製の丸型容器を併用して卓上の見た目に変化をつけるとよい.ホーロー保存容器に入れたサラダの量が減ってきたら,残りをココットに移すなどするわけである.

 さて長過ぎの前ふりに続いて本題であるが,映画『ロード・オブ・ザ・リング / 王の帰還』を観ていると,ゴンドールの執政デネソールがプチトマトみたいな生野菜のサラダを食べている場面が唐突にでてくる.中つ国にもサラダ料理はあるとみえて,それはそれでよいのであるが,荒地ばかりのゴンドールのどこに野菜畑があるのだろうという疑問が湧く.
 ホビットの土地は豊かで,農耕種族である彼らが色々なものを生産して食べていることは映画に描かれているが,人間族に関してはゴンドールだけでなくローハンにおいても生産活動の気配がなく,日常の彼らが何を食料にしているのか作品中に全く描写がない.
 なのに暗鬱な色調の画面に突然登場するデネソール侯のサラダ.
 彩り明るいそのサラダに関して,これが何かの伏線なのか,あるいは伏線の回収なのか,観客には理解できず違和感が残る.デネソール侯の食事が肉料理ならなんの違和感もないのだが…
 小さいことだが,ちょっとこの作品の世界観に不満が残る.

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