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2014年7月21日 (月)

かわいそうなミツバチ

 東北大学大学院農学研究科・農学部のサイトに「主な研究課題」が記載されており,その課題の一つとして「植食性昆虫の寄主選択機構の解明 斑点米カメムシのイネ加害メカニズムの解明」が挙げられている.

 その冒頭から引用する.
斑点米はコメの等級落ちの主な原因で、斑点米カメムシと総称されるカメムシ類がイネの子実を吸汁することで生じる。斑点米がコメ1,000粒に2粒混入すると1等から2等に落等し、コメの価格は60 kg当たり600~1,000円低下する。このように斑点米は農家に甚大な経済的被害を与える問題となっている。

 いま家庭や外食で,カメムシの加害によって発生した斑点米を目にすることはないから,それがどんなものか知らない人が普通だが,私のような還暦過ぎの年寄りはよく知っている.
 昭和三十年代,私が小学生の頃の話だ.母親に米を研げといわれて米櫃のふたを開けると,米粒の中に黒い斑点のあるものがあり,枡で量り取る際に,目に付いた粒は取り除く.それでも取りきれないのが残るから,米を研いでいるときにまた取り除く.
 こうして炊いた白飯にもわずかに残るのだが,これを口に入れるのも嫌だという神経質な向きは,箸の先で除く.
 私の両親は農家の出だったから,私たち子どもに「そりゃ別に毒じゃないから食え」と言い,私たちも平気で食っていた.
 ま,これが昭和中頃の,いわゆる配給米を食っている庶民の食事であったわけだ.

 それがいつの間にか,斑点米は一粒たりとも許すまじということになった.
 誰が許さないかというと,もちろん消費者である.
 それで農家はカメムシを (カメムシも,だけど) 不倶戴天の敵とみなして,バンバン農薬を使うようになった.有機リン系とか.
 これは生態系なんていう言葉すら国民の頭の中になかった時代の話であるが,さすがにそれでは我が国土の先行きが案じられるとの心配がひろまった.実際に農地からカメムシどころか他の生き物の姿も消えてしまったからである.
 それで開発されたのが,カメムシに「特異的に効くとされる」いくつかの農薬だった.

 ところがこれで問題は解決しなかった.
 ネオニコチノイドと総称されるカメムシ用の農薬が,重要な農業生物であるミツバチに被害をもたらすことがわかってきたのである.
 つい一昨日も,朝日新聞DIGITAL(7/19 15:49) に《ミツバチ大量死、原因は害虫用殺虫剤 分析で成分検出》と題した記事が載った.
夏に北海道などの北日本で多発しているミツバチの大量死現象は、害虫のカメムシを駆除するため水田に散布される殺虫剤が原因の可能性が高いとする調査結果を18日、農研機構畜産草地研究所(茨城県つくば市)などの研究チームがまとめた。
死んだミツバチを分析したところ、全てからネオニコチノイド系を中心に2種類以上の殺虫剤成分が検出された。ウイルスによる病気やスズメバチの襲来などはなく、カメムシ用の殺虫剤が原因の可能性が高いと結論づけた。

 この記事を読んで驚く人がいるかも知れないが,しかしこれは別段目新しい内容ではなく,実はEUは既に2013年12月から,ネオニコチノイド系農薬のうちの三種の使用制限を始めている.使用制限しつつ,この問題に関する研究を進めようとの姿勢である.というか,むしろこれはかなり知られていることなので驚かない人のほうが多いかも.
 で,我が国はどうか.
 農水省はこの件について特に解説↓を設けている.
 農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組 (Q&A)

 この解説の中身は要するに,ミツバチ問題はあるが,ネオニコチノイド系農薬は有用だから使用制限はしませんということである.
 この政府の姿勢を支持する保守派論客もいる.
 松永和紀《ミツバチとネオニコチノイド系農薬、「予防原則」で思考停止にならないために…

 農薬問題という切り口からみて,EUと日本と,どちらの姿勢が正しいのか私には判断できないが,そもそも「斑点米は一粒たりとも許すまじ」という消費者の姿勢に問題はないのかと私は思う.
 冒頭に書いたような大学などの研究者には,ネオニコチノイド系農薬を使わずにカメムシの害を減らす基礎研究 (カメムシを殺すのではなく,カメムシが水田に侵入するのを防ごうという姿勢の研究) をしてもらって,それでも斑点米が絶滅できないなら仕方ないではないか.
「きゃーこの黒いお米って気持ちわるい~」と言うバカ消費者に少し譲るとしても,斑点米が嫌なら,昔のように炊く前に除けばいい.除くのが面倒ならパンを食え.パンがなかったらケーキをお食べ.
 私は「風選技術」の専門家ではないが,多量の粒の中に混入した着色粒を除去するのはそう大して難しいことではないはずである.食品に混入した異物を除去する技術として,かなりハイテクな機械装置が既にある.その装置は,異物を検出すると圧縮空気をノズルから吹き付けて,狙い撃ちのように吹き飛ばしてしまう.これを見ると感動すらする.
 上に挙げた論客のような,ミツバチ被害とネオニコチノイド系農薬の有用性を天秤にかけて,ああだこうだと論じる人は,「きゃーこの黒いお米って気持ちわるい~」と言うバカ消費者と同レベルなんだと思う.

 話は横にぶっ飛んで,スーパーで買ってきた野菜に虫がついていると,「きゃ~」とか言ってそのまま丸ごとゴミ箱に叩き込むバカは,炊いたご飯に斑点米を見つけると炊飯ジャーごとゴミ箱に叩き込むに違いない.調査資料はないが,そうに決まっている.文句あるか.ありません.よしよし.

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