それでも猫はでかけていく
ハルノ宵子『それでも猫は出かけていく』(幻冬舎) 読了.
本書は,雑誌『猫びより』に連載された『ハルノ宵子のシロミ介護日誌』をまとめたもの.著者が「あとがき」で《『猫びより』の連載原稿は、イラスト・書き文字・入力文字がゴッチャになった、たいへんやっかいなモノでした。そのまま原稿を連載順にベタで印刷しても、本としては成立し得ないシロモノです》と書いているとおり,読みにくい本である.それにオビに《この本は、吉本家最後の8年間の記録でもあるのです》と書かれているが,著者の父君である吉本隆明のことはほとんど出てこない.しかしそれを割り引いてもなかなかおもしろい本だった.
ペットの殺処分についていうと,犬と猫とでは大きく事情が異なる.犬の場合,野良犬は普通は速やかに捕獲されて殺処分されてしまうのであるが,猫の場合は野良猫と飼猫のあいだに色んな猫たちが地域に生きているからである.
この中間的な生き方をしている猫に関する著者の考え方には,猫の殺処分をなくすために活動している団体の人からも,猫嫌いの人々からも,批判があると思われる.野良猫を保護して譲渡する活動をしている団体は,決して著者のような人を猫の良い飼い主とは認めないであろう.しかし著者はへこたれずに,少数派として我が道を行く.(その経済的負担は並大抵のものではなかろう)
私は猫を飼った経験がないので,著者の猫に対する接しかたがよいのか悪いのか判断できないが,とまれこの本に描かれた猫への愛情はよくわかる.
地方自治体のサイトあたりには「猫はねずみ算式に繁殖する」と書いてあるものがあるが,実際にはそんなことはない.なぜか.そのことについての著者の見解 ,すなわち野良猫という生き物の余りにも短く儚い命についての愛情深い見方は説得力がある.犬好きにも薦めたい一冊である.
ただし,著者が猫の死骸を隣の寺の墓地に捨てているのは違法行為である (たぶん違法という認識がないと思われる).この本を出版したことでこれが問題にならなければいいのだが.
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