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2014年2月 5日 (水)

永山久夫氏の主張

「旅行読売」二月号に,料理研究家の永山久夫氏が《無形文化遺産「和食」 世界を魅了した理由とは》と題した文章を寄せている.
 読んでみると,日本料理ビジネスを世界に売り込もうという政府の提灯持ち的な内容であった.
 永山氏がそこで書いている内容は政府のパンフレットそのままで新味がないこと甚だしいが,文中に《日本人はご飯を食べて、魚、大豆、野菜、海藻をおかずにする。この和食が世界トップの長寿大国にしているのだ》とあるのは見過ごせない.
 永山氏は政府のいうとおりに《栄養バランスに優れた和食の基本「一汁三菜」》として一汁三菜を礼賛しているのだが,一汁三菜それ自体が良好な栄養バランスを保証しているわけではない.
 私がこのブログに今まで書いてきたことの繰り返しは避けるが,日本人の食事における良好な栄養バランスが達成されるにあたって功あったのは,冷凍技術の発展とチルド流通網の充実であった.
 これによって,内陸部でも,塩蔵魚ではない生鮮魚介,あるいは畜肉および乳製品,塩蔵以外の新鮮な野菜を日常的に購入できるようになったことの意義は大きい.
 一汁三菜などという形式的なことは実はどうでもよいのである.要は食事の中身であるのだ.
 永山氏を「食文化史評論家」と紹介する向きがあるが,一汁三菜が和食の基本形だとする政府と同じ主張をしている姿勢だけで,もう「食文化史評論家」ではありえない.日本人の食事を,時代による変化も,経済力の差による食事内容の階層性も無視して語る「食文化史評論家」がいるわけがないのである.

 永山氏がいう《和食が世界トップの長寿大国にしているのだ》に戻る.
 日本人の平均寿命 (零歳児の平均余命) が長くなった (一般にこれを指して「日本人は長寿」といっている) のは,まず第一に我が国の医療技術力の高さと,誰もが医療の恩恵にあずかれる国民皆保険という社会制度の効果であるのは常識である.戦後,幼児死亡率が大幅に低下したことが,数字としての平均寿命を長くしたのである.加えて,寝たきりでも何年か無理やり生かされる医療の効果もあるだろう.
 上述は,我が国の平均寿命が戦後 (ドメスティックに) 伸長し続けたことは医療に支えられていたという話であるが,永山氏が《和食が世界トップの長寿大国にしているのだ》と,他の諸国と比較論を持ち出して,平均寿命の伸長が「和食」のおかげであるというならば,その科学的根拠を示せといいたい.おそらく何も持っていないはずである.
 ちなみに平成元年に政府が設立した公益財団法人長寿科学振興財団のサイトには《日本人の平均寿命がなぜ長いのか、これに対する答えを出すには、様々な国に住む集団を対象にして、数多くの長寿要因に関する詳細な国際的比較研究を行うことが必要です。しかし、そのような研究の実施は難しく、問いに対する明確な答えは今のところ出されていません》と書かれている.

 最近,高橋酒造株式会社という酒屋さんが,全国の二十代~六十代の日本人五百人を対象にして,日本人の「和食」の喫食率に関するネット調査を実施した.(実施日は2013/12/6~12/8)
 同社のサイトから調査結果の一部を引用すると《一汁三菜を基本とする「和食」の喫食率を尋ねたところ、毎日食べる人は全体の約23%、ほぼ毎日食べる人を含めると全体の38%で、その割合は年代と共に低下し、20代~30では約2割にとどまりました》とある.
 ネットアンケートであるからバイアスはかかっているはずであるが,我々の実感からしても概ねそんなところかなと思われる.
 すなわち「一汁三菜の和食」を食べている人は実は少数派である.「一汁三菜の和食」は,少しの「菜」で大量の米飯を食べる伝統的日本食が,経済成長に伴って食事の内容が欧米化していく過程の一時期に現れたものなのである.
 その後さらに欧米化が進行し,いまや国民の四割,若い人たちならわずか二割しか「一汁三菜の和食」を食べていないが,永山氏の主張に従えば,彼ら若い世代は今後早死にしていくだろう,日本人の短命化が進むだろうということになる.(笑)
 そういえば昔,日本人の食事が欧米化していくのと同じころ,農水省食品総合研究所 (現在は独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所) にいた某氏が,戦後の日本人は食品添加物を大量に摂取しているから,今後は短命化が進むと主張し,著書がベストセラーになった.
 しかし今はもう,その虚説と共に某氏の名前も忘れ去られた.永山氏は,食事と寿命についてものを書くのを慎重にしたほうがいい.

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