飲酒煩悩
先日,静岡の知人から「はるみ」が一箱届いた.
「はるみ」は 「清見」に「ポンカンF-2432」を交配して育成した柑橘の品種である.
「清見」 は温州ミカンと外国産のオレンジを交配したもの.
これが実にうまいミカンで,大ぶりの実だが食後にペロリと食べてしまう.
しかも皮がむきやすいときた.
おいしくて食べやすいから一日に二個食べていたら,もう残りわずかとなってしまった.
これはなかなか結構なミカンであるが,「はるみ」という名前がまたよい.
私は都はるみのファンなのである.そうですか.
まだ私が三十代で,学会出張でアメリカ (アリゾナの州都フェニックス) に行ったときのこと.
宿泊したホテルの部屋の棚にミニ・バーがあり,バーボンが数種類置かれていた.
ワイルド・ターキーという酒を口に含んだのはこのときが初めてだった.うまい酒だと思って,以来ワイルド・ターキーを自宅に常備している.
それが在庫僅少となったので,通販で注文した.
これまでは八年とか十二年のものを楽しんでいたのだが,今回はレア・ブリードとケンタッキー・スピリットにしてみた.
いずれも初めて口にする.どんなんかなあと楽しみ.
私は飲酒に際して酒肴にこだわりがない.
こだわりというのはつまるところ煩悩であるからして,肴はなんでもいいというのが年寄りのあるべき姿かと思う.
例えばスコッチに卵焼き,チーズと焼酎なんて組み合わせでも平気である.
定食屋の朝,夜勤明けの人が目玉焼きで冷や酒のんでたりしますが,あれは実にうまそうですな.半熟の黄身に醤油を垂らして,これを白身にまぶしてチビチビと食べる.肴は半熟の目玉焼きがいいと八代亜紀も歌っている.歌ってません.字余りだし.
果物もいい.昨日なんかは「はるみ」で焼酎をのんだ.
冒頭のミカンとか都はるみを持ち出した伏線がここでようやく回収されたわけで,よかったよかった.違います.
チーズも好きなのはスティルトンだが,ロックフォールも店でどうぞと出されれば喜んで食う.
ではあるが,これまでゴルゴンゾーラ・ドルチェは食べたことがなかった.
なんとなくチーズ界の軟弱者という印象を持っていたからだが,先日デパートの地下で夕飯用の串カツとか「三十種類の野菜のサラダ」なんてものを買っていたら,俺はこのまま三大チーズの一つの味を知らずに死んでいくのか,本当にすまなかったドルチェ,という唐突な考えが浮かび,急にこれまでのことを反省してドルチェの小さいカットを買ってみた.千二百円くらいだったかな.
帰宅して早速串カツにウスターソースをぶっかけ,サラダを皿に移して在庫僅少ターキー八年をグラスに注ぎ,ドルチェを一かけら食ってみたら,あ~ら不思議あら不思議,ねっとりとおいしいじゃありませんか.
もうこれからはチーズはゴルゴンゾーラに限る.
あ,煩悩が増えてしまった.まあいいや.
ドイツ文学者の高橋義孝というかたは,仏壇から下げた冷や飯を一粒爪楊枝にさし,これに醤油をちょっとつけて肴にし,酒をのんだと伝えられる.
煩悩をことごとく去れば,このようにさしたる酒肴もなしでいいのかも知れない.
そういう境地にはなれそうもないが.
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