七百万年
何百万年も前,チンパンジーの祖先と,私達ヒトの祖先が分岐してそれぞれの進化を歩み始めたころのこと.
ヒトの祖先の中に,頭蓋が大きくて脳容積の大きいものがいた.
この種のヒトの中で,現在の色んな野生動物のように胎内の子がちゃんと成長してから産み落とすタイプは,頭が大きくては難産なので母親の死亡率が高く,やがて死に絶えた.
だが,脳容積が大きい種類のヒトの中に,胎児の頭蓋が大きくなってしまう前に,自らは身動きもできない未熟な児を産む種類が発生した.
母親の難産は軽減されたが生まれた子はひ弱く非力で,チンパンジーのように母親にしがみつくことができないので,この種類のヒトも多くは絶滅した.
もう本当に奇跡に近いことのように思われるが,未熟な児を産む種類のヒト母親の中に,腕が短くてナックルウォーク (チンパンジーのように拳を地に着けて歩くやり方) をできない者達がいた.
だが,たまたま,この母親達は我が子を抱きしめるという性質があり,それ故,未熟な我が子を抱きかかえて移動し,あるいは敵から子を保護することができた.
もちろんこの種類の中には,母親はナックルウォークするが父親はできない (直立二足歩行する) というもの (つまり父親が子を保護する) もいたかも知れないが,いたとしても絶滅したのだろう.化石はない.
このように,ヒトの祖先の中に,頭蓋が大きく,母親は未熟な児を産み,だがその母親には我が子を抱きしめることのできる者達がいた.
さらには,母親は子を抱いているので食べ物を集めることができないが,暇な父親が母と子に食べ物を持ってくる性質のヒト属がいて,その種類のヒトだけがこの世に生き残った.
理由もなく母が子を抱きしめてしまうという現生人類の性質こそが,この世で人を人たらしめた理由なのであった.
まことに何百万年という時間は大したもので,奇跡的な偶然でも,時間がありさえすれば起きるのだなあ.
こんなことを河合信和『ヒトの進化 七○○万年史』を読んで考えた.
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