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2013年12月20日 (金)

アサギマダラと神秘主義

 朝日新聞DIGITAL (12月18日) に,群馬県中之条町六合地区で9月28日に放蝶されたアサギマダラが,11月27日に沖縄県与那国町の宇良部岳で再捕獲されたとの記事が載っていた.この個体は,二ヶ月で直線距離で2013キロを移動したことになる.また同時に放蝶されたアサギマダラのうち二匹は,高知県内で再捕獲されている.
 前の記事で,《今週号の週刊文春で池澤夏樹氏が『謎の蝶アサギマダラはなぜ海を渡るのか?』を紹介して,「その先にある著者の仮説はいよいよすごい」と書いている.その仮説は神秘主義あるいは疑似科学ぎりぎりのところにあるようなのだが,同書を読んでみないことには始まらない.即座に Amazon に注文した》と書いた.

『謎の蝶アサギマダラはなぜ海を渡るのか?』は,アサギマダラの長距離移動についてフィールドワークのデータを詳しく説明したあと,最後の最後でドンデン返しがある.これがミステリーなら「あっ」と驚くところだ.
 著者の栗田昌裕氏は東京大学大学院修士課程(数学専攻)を経て同大医学部卒.現在は群馬パース大学 (看護師,保健師,助産師,理学療法士,臨床検査技師の養成を行っている医療系大学) の教授で,アサギマダラのフィールドワークで著名な人であるらしい.テレビ出演は百回以上で,アサギマダラの調査研究に関してNHKに二度出演しているという (これは『謎の蝶…』の中でも書かれている).

「最後でドンデン返し」というのは,科学分野におけるこれだけの経歴と学識を持つ人物であるにもかかわらず,それを裏切って堂々とこの本の最後で神秘主義を唱えていることである.池澤夏樹氏の書評に遠慮がちに書かれていた通りであった.
 その神秘主義とは,例えば群馬県から沖縄県まで移動するアサギマダラの集団があるとして,その集団には目的地に移動しようという全体意思があると説明しているところである.
 旅をしているのはその全体意思 (著者は「心」と呼んでいる) であって,個々の個体はその物理的要素にすぎないというわけだ.
 なぜそのように考えられるのかは本書では全く説明されていない.「私はそう思う」と言うだけである.

 また著者は,自分が放蝶した個体を何度も再捕獲することに成功しているが,これはアサギマダラの方が著者に会いにくるのだと書いている.そうでなければ,このように確率の低いことが起きることの説明がつかないと.
 だが私達の常識では,起き得ないこと以外は必ず起きるのである.放蝶した本人による再捕獲の確率が如何に低かろうと,実際にそのような放蝶の本人による再捕獲という現象が何度も起きることは否定されない.従ってわざわざ「アサギマダラが著者に会いに来る意志をもっている」と神秘的に考える必要は全くないのだ.

 神秘主義とか反科学主義ならまだわかるが,著者の研究方法は非科学的である.
 普通の論理的思考であれば,似たような行動をとる渡り鳥や回遊魚とアサギマダラとの比較を試みるであろうが,著者は鳥の旅にも魚の旅にも一切触れようとしない.なぜ比較しないのかについて触れようともしていない.非科学的という所以である.

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