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2013年12月11日 (水)

薩摩醤油の今

 ずっと前のこと,某新聞社の妄想系掲示板と私が呼んでいるネット掲示板に「九州の醤油はどうして甘いのか」という趣旨の質問トピが立った.私はそのトピに,薩摩醤油と琉球の砂糖との関係とか,薩摩藩による欧州への醤油輸出など歴史的事情についてレスを付けた.ところがしかし,トピ主と何度かやり取りして,なかなか良いトピになったと思ったとたん,何が掲示板検閲者の機嫌を損ねたのか知らないが,トピ丸ごと削除されてしまった.
 昨日そんなことを思い出したものだから,歴史的な意味での薩摩醤油の製造法はもはやわからないとしても,現在製造されている薩摩醤油の製造法はどうなっているか,原材料を調べてみた.
 現代の薩摩醤油には自称「老舗」がいくつかある.それらは怪しからぬことに自社サイト上に原材料を全く書いていないか,「原材料についてはお問い合わせください」などと書いている.なにか秘伝のレシピでもあるのだろうか (笑).
 そこで原材料表示を明らかにしている製造者または販売者の製品限定ではあるが,調べた結果を以下に列挙する.(書かれているそのままを引用したので表記に不統一の点がある)

【A】
原材料;脱脂加工大豆・小麦・食品(註)・アミノ酸液・砂糖・調味料 (アミノ酸等)・カラメル色素・甘味料 (甘草・ステビア・サッカリンNa) 保存料 (パラオキシ安息香酸)・ビタミンB1   (註)食塩の誤りであろう.

【B】
原材料;糖類 (果糖ぶどう糖液糖,砂糖),脱脂加工大豆,小麦,食塩,アルコール,調味料 (アミノ酸等),甘味料 (ステビア,カンゾウ),カラメル色素,ビタミンB1

【C】
原材料;アミノ酸液,食塩,脱脂加工大豆,小麦,果糖ぶどう糖液糖,アルコール,カラメル色素,調味料 (アミノ酸等),甘味料 (サッカリンNa,ステビア,甘草),ビタミンB1

【D】
原材料;アミノ酸液,砂糖・ぶどう糖果糖液糖,脱脂加工大豆,小麦,食塩,発酵調味料,調味料 (アミノ酸等),酒精,カラメル色素,甘味料 (ステビア,サッカリンNa,カンゾウ),ビタミンB1 (原材料の一部に小麦・大豆を含む)

 一方,東日本や関西地方でメジャーな醤油の原材料は次の通りである.

【E】商品名「キッコーマンしょうゆ」(キッコーマン株式会社)
原材料名;脱脂加工大豆 (遺伝子組換えでない),小麦,食塩,大豆 (遺伝子組換えでない),アルコール

【F】商品名「こいくちしょうゆ」(ヒガシマル醤油株式会社)
原材料;小麦,食塩,脱脂加工大豆 (遺伝子組換えでない),大豆 (遺伝子組換えでない),アルコール

【G】商品名「うすくちしょうゆ」(ヒガシマル醤油株式会社)
原材料;食塩,小麦,大豆 (遺伝子組換えでない),脱脂加工大豆 (遺伝子組換えでない),米,ぶどう糖,小麦たんぱく,アルコール

 こうしてみると,現代の薩摩醤油 (A,B,C,D) と一般的な醤油 (E,F,G) では原材料が全く異なることが一目瞭然である.
 まず【A】は,調味料 (アミノ酸等),カラメル色素,甘味料 (甘草・ステビア・サッカリンNa),保存料 (パラオキシ安息香酸),ビタミンB1 など食品添加物のオンパレードである.
【B】は,一番使用量の多い原材料が「糖類(果糖ぶどう糖液糖),砂糖)」というから驚く (「果糖ぶどう糖液糖」は簡単にいうと水飴のこと).これはもう,ほとんどシロップに醤油が混合してあるものといっていい.主原料が水飴と砂糖なのに,さらに甘味料 (ステビア,カンゾウ) を添加しており,どれだけ甘くすれば気が済むのか理解に苦しむ.
 また,保存料こそ使用していないが,日持ち向上剤である「調味料 (アミノ酸等)」を使用している.笹団子の記事でも書いたが,この「調味料 (アミノ酸等)」の主成分はグリシンで,特有のいやな味がする.
【C】と【D】の特徴は,最も使用量の多い原材料がアミノ酸液であることだ.アミノ酸液とは,大豆や小麦を塩酸で分解し,水酸化ナトリウムで中和したものである.
 第二次世界大戦前後の食糧不足の時代に,醤油の醸造に必要な原料である大豆や小麦の入手が困難となったため,魚介類などの雑多な原料を分解してアミノ酸を作り,これに醤油粕の絞り汁等で風味を付けたものが作られた.本来の醤油とは全く異なるもので,これを代用醤油という.【C】と【D】はこの代用醤油の直系子孫である.(詳しくは Wikipedia【代用醤油】 参照)

 こうしてみると,キッコーマンやヒガシマルはさすがである.きちんと醤油作りをしている.
 私は,着色料等を除いて食品添加物の使用を肯定するものである.しかし食品添加物の使用によって得られるメリットは,その食品のおいしさとトレードオフの関係にあると考える.使わずに済むものなら使わぬほうがよい.
 キッコーマンやヒガシマルが,保存料やグリシン,甘味料,カラメル色素等を使わずに醤油を製造できている以上,食品添加物を多用する現代的薩摩醤油のメーカーは技術的に劣っていると断定してよい.技術的に劣る製造者の製品がおいしいわけがない.

 私がネット検索して調べた現代の薩摩醤油は,あまりにもひどい.鹿児島には,こんなシロップに代用醤油を混ぜたような代物ではなく,伝統的な薩摩醤油を作っている製造者はいるのだろうか.いると信じたいが.

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コメント

 我が家で使用している香川県の「かめびし」醤油の原料はラベルの記載によれば、大豆(国産)、小麦(国産)、食塩、粗製海水塩化マグネシウム(にがりとの注記あり)です。

投稿: warbler | 2013年12月11日 (水) 06時18分

 本文で挙げた薩摩醤油と異なり,同じ九州でも福岡の北伊醤油あたりの本醸造醤油は,大豆・小麦・食塩・アルコールが原材料であるとサイト上で明記しています.この食塩は天日塩で,アルコールは瓶口の殺菌に使用し,製品に添加はしていないと書いていますから,香川のかめびし屋と同じですね.いずれもアルコール無添加ですから,かなり良い工程管理がされているのでしょう.
 薩摩醤油はどうしてこうなっちゃったのか.江戸の末期にはアミノ酸液も食品添加物もなかったわけですから,今に至るまでのどこかで,元々の製造技術が伝承されずに途絶えた,みたいなことがあったのかも知れませんね.

投稿: 江分利万作 | 2013年12月11日 (水) 13時03分

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