お電話ありがとう
今年の初めに引っ越すまで私が住んでいた家の近所に,たいへん気前の良いご老人がいて,自分はウイスキーを飲まないからと言って,中元歳暮に届いたウイスキーを片っ端から私にくれた.
それで私は今,全部飲むのに数年はかかろうかという程のウイスキー長者である.
その一本の封を切って,昨日の夕飯にした.
酒肴は,一昨日,娘から送られてきた三崎の冷凍鮪がいい具合に解凍できている.
それと冬休み用に買っておいたスティルトン.
自分では買わないようないい酒と,そこらの居酒屋ではお目にかかれない赤身の鮪ではあるけれど,黙々と飲んでも楽しくないので,iTunes を立ち上げてBGMを流す.
アルバムは“STAR BOX / JO STAFFORD”.
これには“Thank You For Calling”が収録されている.
もう随分前に途絶えてしまった恋人からの電話.声を聞いた途端に滲んでくる涙.なんだかしみじみとした酒になりそうな気がしてくる.
いつこちらに来られるの? 何時に来るの?
ああ,こちらに来るわけじゃないのね.
うん,わかったわ,そうよね.
じゃあなたも元気で.
ありがとう,わたしはだいじょうぶ.
お電話ありがとう.さよなら.
私は女を捨てた経験がないので,捨てられたことはありますが,こんな電話をかけてくる男の心理がわからない.
〈通話終わりです〉
ええ,ええ,わかってるわ.
もう終わったの.
“Thank You For Calling”は1954年にヒットした哀切なバラード.
そういえば,電話交換手という職業がなくなったのはいつ頃のことだったかしら.
調べてみたら,NTT東日本のコンテンツに回答があった.
少し引用してみる.
《1926年から徐々に「交換手」に代わる「自動交換機」が導入されるようになったのです。》
《1952年の日本電信電話公社発足当時、市内通話はステップ・バイ・ステップ交換機で自動的につながるようになりましたが、市外通話では依然として交換手が接続業務を行っていました。》
《交換手を介さず待ち時間もない市外通話は、クロスバ交換機の普及や回線の増設により1967年には県庁所在地級の都市で利用されるようになり、1978年には全国に広まりました。》
もちろん電話網の発達の点でアメリカは日本の比ではないだろうが,それでも1954年の,遠いところに行って心変わりしてしまった恋人からの市外通話は,オペレーターを介していたのだと歌詞からわかる.
Thank you for calling. Goodbye. お電話ありがとう.さよなら.
私が初めてラジオで洋楽を聴いたのは中学二年生の時で,どういうわけか当時の音楽番組ではパティ・ペイジとかドリス・デイ,ジョー・スタッフォードなどをよくかけていて,それで1950年代の曲が今でも好きだ.
昔の歌はいい.昨晩は一枚のアルバムを繰り返して聴いて,ボトルを三分の一あけて酔ってしまった.
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