通販サイトの書評
吉永南央『萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ』(文春文庫) が割といいよという評判を聞いたので,買ってみた.
注文する時に Amazon のレビューをざっと読んでみたら,《コージーミステリという「幸福の約束」》と題した長めの文章があった.その冒頭の一行に《大船観音に見下ろされる町の和風喫茶『小蔵屋』を営み、美味しい試供品の無料コーヒーも出してくれる、76歳の草おばあちゃん》とあるのだが,届いた本を読んでみたら,小説の舞台は北関東であった.
どうやら主人公のおばあちゃんが住んでいるのは群馬県の高崎市をイメージした地方都市である.おばあちゃんの経営する喫茶店がある町の名は紅雲町といい,紅雲町はお隣の前橋市に実在する町名だ.オール讀物推理小説新人賞を受賞してミステリィ小説界に登場した作者は,埼玉県生まれで群馬県立女子大卒業というから,さもありなん.
さて冒頭にあげた Amazon のレビュー筆者だが,作中に大きな観音様が出てくるにしても,それをどうして大船観音に決めつけたのかが不思議.高崎には小高い丘の上に立つ大きな観音様の立像があるのだ.それに大船観音は背が低いから「町を見下ろし」たりしていない (すぐ近くのJR大船駅は見下ろしているが) し,作中の地方都市の描写は大船観音界隈と全く異なるのに.
この筆者は,『萩を揺らす雨』を読まずに,ネットに書かれた他の人の感想文を読んで内容を拝借したのだろうか.探すと他にも『萩を揺らす雨』の舞台を大船としているブログがみつかった.あるいは三上延の『ビブリア古書堂の事件手帳』との混同もあるかも.
このレビュー筆者のような,本を読まずにレビューを書く人は何を考えているのだろう.
実はこれ,書籍に限らない.Amazon とか楽天のレビューには,使ってもいない商品のレビューを書く人達が散見される.不思議な人達である.
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