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2013年11月23日 (土)

蚕のこと

 毎日新聞 (11月22日) によると,来年二月にパリで,皇室による養蚕を紹介する展覧会が開催されるのだそうだ.
 皇室による養蚕のことは時折耳にするけれど,実際のところは詳しくわからない.記事によると《皇室では明治期以来、歴代皇后が養蚕を引き継いでおり、「小石丸」という古くから国内で飼育されながら極めて希少になった蚕を皇后さまが育てている》というから,皇室の養蚕自体はそれほど起源の古い話ではない.ただし「小石丸」という飼育種が歴史的にどこまで遡るものなのか興味の持たれるところだ.今もこの「小石丸」から採った繭で正倉院宝物の復元がなされているというから,相当に歴史ある蚕なのだろう.
 今の皇室の様子から推察するに,皇室における養蚕は美智子皇后の代で途絶えるかも知れないが,「小石丸」の保存はどうなるのだろう.

 私の郷里である群馬県の養蚕業は,その隆盛は江戸期に遡るのだそうである.それで明治期には富岡に,殖産興業の象徴のようにして,大きな官営製糸場が作られたりした.
 戦後は群馬の養蚕はすっかり衰えた.私の姉が嫁いだ農家でも,今は趣味的なレベルでしか養蚕をしていない.
 それでも私が小学校時代には,季節になると通学路のそこかしこの家で,繭を煮る臭い (かなりの悪臭) がしたものだ.これは普通の民家でもやっていたから,養蚕農家で作られた繭から絹糸を紡ぐ下請け内職のようなものがあったのだろう.今となっては確かめようもないことではある.
 さてある日,学校の帰りに興味津々でその民家の一軒を覗いてみると,今なら民俗博物館にでも展示されていそうな手回しの糸車を回し,おばあさんが糸を紡いでいた.
 話は横に逸れるが,糸車については面白いことがあって,『眠れる森の美女』で主人公の王女は「指を糸車で刺して死ぬ」という呪いをかけられて長い眠りにつくのであるが,実は糸車には指を刺すような部分がないのである.
 ちなみに Wikipedia 【眠れる森の美女】から物語を抜粋してみると次のようである.
 あるところに子どもを欲しがっている国王夫妻がいたが,ようやく女の子を授かったので祝宴に十二人の魔法使いが呼ばれた.魔法使いはそれぞれ魔法を用いた贈り物をするが,その途中で,祝宴に一人だけ呼ばれなかった十三人目の魔法使いが現れて「王女は紡錘が刺さって死ぬ」という呪いをかける.まだ魔法をかけていなかった十二目の魔法使いがこれを修正し,「王女は紡錘が刺さり百年間眠りにつく」という呪いに変えた.呪いを取り消さなかったのは修正する以外に方法がなかったためである。
 王女にかけられた呪いを心配した王は国中の糸車を燃やさせてしまう.ところが王女は十五歳の時に一人で城の中を歩いていて塔の上に上ってしまい,塔の一番上で老婆が紡いでいた紡錘で手を刺し,眠りに落ちてしまう.塔は呪いによって茨が繁茂して誰も入れなくなった.
 さて百年後に,近くの国の王子が噂を聞いて城を訪れる.ここから先は黄金のパターンで,王子がキスをして王女は目を覚まし,結婚して幸せな生活を送ったとさ.よかったよかった.

 というのが『眠れる森の美女』のお話であるが,問題は紡錘 (スピンドル) である.上に書いたように紡錘には別段尖った部分はないから,どうすれば指に刺さるかがわからないのである.
 ここら辺のことは Wikipedia【糸車】の「物語の中の糸車」節にあるので,興味ある向きはどうぞ.
 またこの節には,
《英語の「spinster」という語は優れた紡ぎ手を指す古語だが、後に結婚しない女性のことも指すようになった(糸紡ぎの仕事で結婚しなくとも自活できるとの意味)。》
とも書かれている.
 少年の私が民家で見かけた糸を紡ぐおばあさんは,たぶん戦前の少女の頃から絹糸を紡いできた熟練の spinster で,だから誤って紡錘を指に刺して眠ってしまうようなことはなく,白馬の王子様にキスされることもなかっただろう.しかしやがてその spinster は,もう一つの語義とは異なって嫁ぎ,そして子や孫に恵まれ,老いたその日もゆっくりと糸車を回しながら糸を紡いでいたのだろう.私の記憶の中の糸車は,そういう光景の中にある.

 で,養蚕といえば桑畑だ.私の生まれ育ったのは都市部であるが,それでも家から少し歩けば広い桑畑があった.
 の実は初夏に熟する.まだきれいな赤い色をした実はちょっと酸っぱいが,熟した桑の実は赤黒くなり,甘くて美味しい.
 桑の実のことを群馬の方言でドドメという.だから,脚などを打撲して内出血した部分の赤黒い色を,ドドメ色と呼んでいた.今もドドメ色なんて言葉は残っているのだろうか.
 そう思って検索してみたら, Wikipedia に【どどめ色】という項目があった.引用出典のない記述であるが,こう書かれている.
《この言葉は人や地方によって解釈が異なるものであるが、主には桑の実が関連する色である。「どどめ」とは、埼玉県や群馬県など関東の養蚕が盛んな地域で古くから使われている方言であり、蚕のエサである桑になる実の事を指す。それが転じてどどめ色は桑の実の色として使われる。桑の実は熟すにつれて赤色から黒紫色へと変化するため、人によって意味する色が異なる原因にもなっている。また比喩表現としては特に熟した桑の果実を潰した際に紫色の汁が皮膚に付いたその状態にちなんで、青ざめた唇や青アザになった皮膚を表現する。》

 概ね,その通りである.しかしこの項目の残りの記述は全くの独自研究なので,無視されるがよかろうと思う.(--;)
 このドドメを食べると,舌が紫色に染まる.子供達の舌を見れば,桑畑に入り込んでドドメを食べたことがすぐわかるのだった.
 桑畑で遊んで家に帰ると,喉が渇いた子供達は母親にジュースをねだるのだけれど,そのジュースは「ワタナベのジュースの素」であり,これは香料で果汁の風味をつけた粉末ソーダであって,飲むとこれも舌に色がつくのであるが,今ならとても許されない着色料を使用していたとおもわれ,父さん,ぼくは泣けてしかたありませんでした.れいちゃん,富良野はもう雪です.こらこら.

(註;話がとりとめなくなって収拾がつかないときに便利な「とおもわれ,父さん,ぼくは泣けてしかたありませんでした.れいちゃん,富良野はもう雪です」は『北の国から』がネタであるけれど,検索すると昔私の書いたものがいくつもヒットする.検索エンジンとはすごいものだと感心するが,同じフレーズを今も使い続けている私もすごい.こらこら)

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