顕微鏡下の金平糖
小川洋子『とにかく散歩いたしましょう』(毎日新聞社)を読んでいたら,有殻アメーバの話がでてきた.知人の数学者と食事した際に,その学者が有殻アメーバの写真を見せてくれたのだという.
私の貧相な頭の中のアメーバは,不定形の単細胞生物以外の何者でもなかったので,「なんだそれは」とネットで「有殻アメーバ」を検索してみた.
そうしたらヒット244,000件.正直言って驚いた.私の知識の外で,たくさんの人達のあいだで,こういう世界が広がっていたのね.
彼女はこの小さな生き物が作る殻の愛らしさに感動したと書いているので,私はさらに「有殻アメーバ 画像」で検索してみた.
残念なことに画像一覧の中には,彼女が目にした有殻アメーバの画像と全く同じものはなかったのだが,多様な有殻アメーバの画像がネット上にはあり,彼女の感動がわかる気もした.
ところで,ある人が自分のブログに,小川洋子さんが見た有殻アメーバについて(★)のように書いていた.
(★)それでどんな形かと言うと「丸くてすそにフリルがあって角が生えていて~」というから多分この画像みたいなのじゃないだろうか?
http://blog.livedoor.jp/xyzxyz4/archives/51320412.html
このブログ(↑)に掲載されているのは「ウロコカムリ」というものらしく,小川洋子さんが書いているものとは全く違う.彼女が見た有殻アメーバの殻は球形で金平糖のような角(つの)があると書いているのに,このブロガーが載せている画像は細長い壺状で,角ではなくひげがある.殻の入り口にフリルもない.たぶん金平糖という菓子を見たことがないからだろうけれど,とても私と同じ文章を読んだ人とは思えない.
さて有殻アメーバについて書かれたサイトを読み進んでいるうちに,私は光瀬龍『ロン先生の虫眼鏡』に描かれた小さな生き物,プラナリアとクマムシを思い出した.
『ロン先生の虫眼鏡』はハードカバーが早川書房から出版され(1976),のちに徳間文庫に入った.ハードカバーは昔手放したのだが,数年前にまた徳間文庫版を買い直した.徳間の古本は Amazon で入手可能.
プラナリアは徳間文庫版の PartⅢ にある「わが青春のプラナリア」に,クマムシは同 PartⅢ の「したたかな者たち」に登場する.
「わが青春のプラナリア」は,誰にもある遠い記憶のような,しみじみとして少し苦い味のする短編である.
光瀬龍が理学部生物学科の学生であった「わが青春のプラナリア」の時代から六十年後,いまプラナリアの研究はどうなっているのかとウェブを検索したら,この夏にも最新の成果が発表されており,プラナリアの再生能力の分子生物学的解明とか,認知症やアルツハイマーの治療につながる研究とか,すごいことになっている.
有殻アメーバはどうかというと,環境学分野で地道な研究が続けられているようだ.クマムシや有殻アメーバがいつか脚光を浴びる日がきたら楽しい.
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