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2013年9月 2日 (月)

「PCで漢字が・・・」の補遺

PCで漢字が書ければいいじゃないの」(8/22)に次(★)のように書いた.

(★) Wikipedia によると,中国で用いられている漢字(簡体字)の総数は2235字であるという.ところが YOMIURI ONLINE (8/21) の記事『中国、漢字書けない若者が急増』に「中国政府が定める、新聞や書籍などで日常的に使う漢字は6500字で、ひらがな、カタカナも使う日本の常用漢字の約3倍。」とあった.「中国政府が定める」「新聞や書籍などで日常的に使う」のは簡体字のはずで,6500字もあるはずがない.これは一体どういうことか.

 この記事に対して,読者の sakai さんから以下(☆)のように指摘を頂いた.

(☆) 簡体字の字数についてですが、「近くて遠い中国語」(阿辻哲次著)によれば、1986年に「簡化字総表」(2235字)が再発表されたとあり、冒頭のwikiの字数はこれを指すと思われます。ただ、この表は簡体字の字形の基準を示したもので、簡体字のないもの(正字をそのまま使うもの。たとえば漢数字の「一」など)は、この表には含まれていません。その後、1988年1月に「現代漢語常用字表」(常用字2500字、次常用字1000字)、同年3月に「現代漢字通用字表」(7000字)が発表されていて、印刷に使う字形などはこちらが基準となっているようです。

 それで阿辻哲次著『近くて遠い中国語』を入手して読んでみたのだが,読売の記事にある「中国政府が定める、新聞や書籍などで日常的に使う漢字は6500字で、ひらがな、カタカナも使う日本の常用漢字の約3倍。」を裏打ちするような記述はなかった.
 もしかしたら忘れていることがあるかもと思って,出版直後(2001年)に読んだ高島俊男『漢字と日本人』を取り出してざっと再読してみたが,同様にこの“6500字”に係る記述はなかった.

 手詰まりかなと思いつつウェブを調べていたら,横浜国立大学名誉教授・村田忠禧氏の『日本と中国の漢字使用状況の比較研究』と題した論文がみつかった.
(村田名誉教授については色々な政治的評判があるが,それはさておく)
http://sng.edhs.ynu.ac.jp/lab/murata/murata-kanji01.html

 上記論文の「七 総合結果」に「表20」があり,これに「中国で実施された漢字の総合調査結果による字種数は6462字」とあり,これが読売の「中国政府が定める、新聞や書籍などで日常的に使う漢字は6500字」に,字の数としてはもっとも近い.
 ただしこの6462字という数字は,印刷物に現れる漢字の総数を調べた調査結果に過ぎず,日常使用する漢字の規範として中国政府が定めたものでも何でもない.

以上,私なりの結論は以下のとおり.

・読売の記事にある「中国政府が定める、新聞や書籍などで日常的に使う漢字は6500字」は誤りである.

・誤りは「中国政府が定める」と「新聞や書籍などで日常的に使う」という二点に分けられる.

・「中国政府が定め」た漢字に関する現在も有効な規範は,『現代漢語常用字表』と『現代漢語通用字表』である.

・現代漢語常用字表;
 中国国家語言文字工作委員会と国家教育委員会が合同で1988年1月に発布した漢字表.日本の常用漢字に相当する.常用字2500字と次常用字1000字の計3500字.字形は簡体字.

・現代漢語通用字表;
 中国国家語言文字工作委員会と新聞出版総署が1988年3月に発布した中国語の規範漢字表.7000字.この漢字表は主に出版印刷・情報処理分野での漢字使用に対応するために作られ,日常使用しないものも含んでいる.

・村田論文から考察すると,中国語の場合は新聞や書籍などで日常的に使う漢字の総数は約4300字である.(日本語の場合は約3000字程度)

 結論からすると読売の記事は誤りであったのだが,なかなか勉強になった.

この記事の続き
「PCで漢字が・・・」の補遺二

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