小言幸兵衛 補遺二
書いているうちに段々腹が立ってきた.あ,「段々腹」が立ってきたのではない.「だんだんと腹が立ってきた」だ.
瀬尾幸子氏の趣味は,全国各地の居酒屋めぐりだそうだ(NHK『あさイチ』のサイトに掲載の出演者プロフィル).それを見て,氏の著書量産手法が想像できた.つまり居酒屋や小料理屋で出された品をパクるのではないか.レシピを詳しく正確に記述できないのは,オリジナリティが他人のものだからではないだろうか.
最悪の例をあげる.上記『あさイチ』のサイトに掲載されている「いかワタじょうゆ」のレシピである.
【材料・つくりやすい分量】
・いか・・・1ぱい
・しょうゆ・・・適量
案の定である.私はこの「小言幸兵衛」の本文で《「味噌」とか「醤油」とか大雑把に書いて済ませていなければよいのだが》と書いたが,情けないことに的中した.「しょうゆ・・・適量」だが,これでは何も書いていないに等しい.醤油といえば濃口醤油の地域と,醤油のデフォルトは淡口醤油である地域がある.醤油ならなんでもいいというのか.鹿児島の砂糖入りの甘い醤油でもいいのか.しかも「適量」だと.
烏賊はなんでもいいのか.紋甲烏賊でもいいのか.いいと言うなら作ってみなさい.
かなり前だが,「一万円で一ヶ月暮らす」とかいう趣旨のテレビ番組があり,その一ヶ月間の録画の中で,ギャル曽根ちゃんが巨大な肉まんを作って食べていた.安価であり,作り慣れているようでもあり,巨大な肉まんというオリジナリティとそれを作ってしまう腕前に,若い娘さんなのに大したもんだと私は大いに感心した.それ以来私は,ギャル曽根とは呼び捨てずギャル曽根ちゃんと呼んでいる.彼女が私のことをどう思っているか直接聞いたことがないのでよくわからないが,私は彼女を好きである.
それに比べて瀬尾幸子はどうだ.あ,とうとう呼び捨てにしてしまったが,著書名を以下に列挙する.
『一人ぶんから作れるラクうまごはん』
『ちゃぶ台ごはん』
『おつまみ横丁―すぐにおいしい酒の肴185』
『おかず食堂―すぐにおいしい朝・晩ご飯150』
『かけごはん100』
『ひる麺100―ささ~っと作ってお昼に食べたいかんたん麺+おかず1 』
『瀬尾幸子のふだんごはん』
『めんどうなことなし! いちばん簡単なとうふレシピ』
『のっけごはん100』
『もう一軒 おつまみ横丁―さらにおいしい酒の肴185』
『みその料理帳』
『毎日、とうふ!―簡単レシピばかり121品』
『昭和ごはん 作れる思い出レシピ』
『最新版とうふレシピ』
『お料理の基本―困ったときに頼りになる!料理の「?」解消BOOK』
『みんなの大衆めし』
『ルクエで作る男子の家呑みおつまみ』
『あれにもかけたい!これにもかけたい! 食べる調味料』
『せおつまみ 今宵もうまし、たのし。簡単絶品酒の肴集帖』
『元気食堂 キリッと旨いおかずやつまみ110』
『だれでもおいしく作れる いまどきの料理の基本』
『シンプル圧力鍋おかず』
『デリつまみ・バルつまみ120』
『インスタントラーメン 瀬尾幸子さんの勝手にアレンジbook』
『10分弁当』
『フライパン1つでOK!簡単ごはん』
『シンプル鍋100』
『シンプルスープ100』
『わっ、かんたん!人気の鍋もの―煮るだけだから技いらず!』
(まだあるが,ばかばかしくなったので略)
おわかりであろう.瀬尾幸子という女の,わっ見下してしまった,料理のコンセプトは「らく」「すぐ」「かんたん」「シンプル」「ぶっかける」「のっける」「ささ~っと」なのである.
亡くなられて久しいが,関西の家庭料理研究の第一人者であり,「おふくろの味」というコンセプトを打ち立てた土井勝氏の料理の基礎は,海軍経理学校を経て戦艦大和の乗組員となった帝国海軍時代の経験,艦隊の料理法であるという.合理性と質実剛健を旨とする土井氏のレシピは,簡単な家庭料理でありながら瀬尾氏の対極にあるもののように思われる.
ついでに料理研究家の元祖である江上トミ氏.
この先生がテレビ番組で作ってみせた料理も実に質素な家庭料理であったが,今はもうおいそれとは作れなくなってしまったものがある.テレビをみて「うまそうだ」と思ったのを今でも記憶しているが,火鉢の灰の中に俵型のお握りを埋めて作る焼きお握りはその一つ.昭和の高度経済成長期に日本から失われていったものの一つであろう.ぐちぐち.ああ昔はよかった.しくしく.気持ちが全面的に後ろ向きになったので,以上補遺おわり.
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