北方『三国志』(三)
先日から北方『三国志』を読み始めたのは,ひょんなことから同僚に「吉川英治の『三国志』を若い頃から二度読んだ」と聞いたのがきっかけだ.彼は,三国志はおもしろいぞとも言った.それじゃあ読んでみるかと本屋に行ったら北方謙三の『三国志』が平台に積んであったというわけである.いや,吉川『三国志』も置いてあったので,それからいくのがよいかも知れないとは思ったのだが,吉川本は分厚くて通勤かばんに入れるのがちょっとね,と思ったのだった.
というわけで私は,中国のこの時代と,そこに生きた英雄達については一般的知識しかないので著者の語るところをそのまま書くと,北方『三国志』に描かれた呂布の人間像はかなりオリジナリティのあるものだ.赤兎馬も然り.従来の赤兎馬の伝説が余りリアリティのないものなので,こっちの方がずっといいと思う.
さて文庫の末尾には各巻の紹介宣伝文が載っているのだが,その結びのワンセンテンスを紹介しよう.
一の巻 天狼の星
… 激しくも哀切な興亡ドラマを雄渾華麗に謳いあげる、北方〈三国志〉第一巻。
二の巻 参旗の星
… 秋(とき)の風が波乱を起こす、北方〈三国志〉第二巻。
三の巻 玄戈の星
… 戦乱を駆け抜ける男たちの生き様を描く、北方〈三国志〉第三巻。
四の巻 列肆の星
… 戦国の両雄が激突する官渡の戦いを描く、北方〈三国志〉待望の第四巻。
五の巻 八魁の星
… 北方〈三国志〉待望の第五巻。
六の巻 陣車の星
… 北方〈三国志〉風雲の第六巻。
七の巻 諸王の星
… 周瑜、諸葛亮、希代の智将が、誇りを賭けて挑む『赤壁の戦い』を描く、北方〈三国志〉白熱の第七巻。
八の巻 水府の星
… 北方〈三国志〉激動の第八巻。
九の巻 軍市の星
… 北方〈三国志〉震撼の第九巻。
十の巻 帝座の星
… 英雄たちの見果てぬ夢が戦を呼ぶ、北方〈三国志〉波乱の第十巻。
十一の巻 鬼宿の星
… 北方〈三国志〉衝撃の第十一巻。
十二の巻 霹靂の星
… 北方〈三国志〉慟哭の第十二巻。
十三の巻 極北の星
… 北方〈三国志〉堂々の完結。
もうおわかりであろう.第一巻から三巻は単に「北方〈三国志〉第○巻」であるのに対して,第四巻以降は,待望の第四巻,待望の第五巻,風雲の第六巻,白熱の第七巻,激動の第八巻,震撼の第九巻,波乱の第十巻,衝撃の第十一巻,慟哭の第十二巻と,一つのパターンに収まっている.
この文章の作成者は,第三巻までは何気なく書いたものと思われるが,さすがに第四巻で「これではいかん,芸がない」と思ったのだろう,「待望の」を付け加えてみたのだ.第五巻は,締め切りに追われてうっかりまた「待望の」にしてしまったのだが,この手抜きを上司に叱責され,次巻からは性根を入れ替えて風雲,白熱,激動,震撼,波乱,衝撃,慟哭と苦しみながらもひねり出したのに違いない.きっとそうだ.文句ありませんね.はい.
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