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2008年3月18日 (火)

嘘つき

 日経トレンディネットに『田中康夫独占インタビュー 食品偽装問題の根っこにあるもの』と題した記事がある(記事は[1][2][3][4]の四頁に分けられているので,それぞれのgoogleキャッシュをあげておく).インタビューの日か掲載日か分からないが2007年12月17日の日付がある.この記事で,田中康夫氏の発言中に虚偽があるので指摘しておく.

 まずイントロはこうだ.
《食品の偽装表示の問題、建築物の耐震偽装の問題、そして最近騒がれている血液製剤によるC型肝炎感染問題、いずれも背景にあるものは同じ、(中略) 戦後の日本が偽装し隠蔽してきたものの下にあるヘドロやメタンガスが噴出してきている、ということなのです。であるなら、根こそぎそれを掘り起こしてつくりかえるぐらいのことをやらないといけないのに、現実にはまったくできていない。食品の偽装表示はその象徴のような問題と言えるでしょう》
 これに以下の文章が続く.
★《そもそも賞味期限や消費期限は誰がどういう基準で決めているのか? 農水省と厚労省の「食品期限表示の設定のためのガイドライン」によると、期限表示の設定は、理化学試験などの科学的・合理的な根拠に基づいて製造業者が行うことになっています。第三者の認証や科学的な根拠の提出が求められることもなく、届け出もいらない。つまり、すべてメーカーにお任せなわけです》

 《科学的な根拠の提出が求められることもなく》と氏は書いているが,ある食品の期限表示が不適切であると疑われた場合,自治体(の保健所)は食品事業者に,表示の科学的な根拠の提出を求めるであろう.そして食品事業者はこれを拒否できない.
 また《すべてメーカーにお任せなわけです》を読むと,いかにも食品事業者が自己責任で期限表示を行うことが悪いことのようであるが,田中氏は私達の周囲に一体どれくらいの数の食品が存在するか,日々どれだけの新製品が発売されているか知らないかのようである.その膨大な数の食品の消費期限・賞味期限を行政が確認したり,第三者機関が認証できると思っているとすれば,まことにおめでたい.それが現実的に不可能であるから,とりあえず食品事業者が自己責任で期限表示を行うこととし,不幸にして食品事故が発生したら,個々のケースに応じて行政が指導するやり方が採られているのである.

★《たとえば、A社とB社が製造日から10日で腐敗し始めるまったく同じ商品を同じ条件でつくり、保管したとします。A社はそれを賞味期限5日として売り、B社は8日として売る。どちらでも問題ありません。ところが、A社は5日目に売れ残り商品の表示を7日に書き換えてしまった。衛生上は問題ない、食中毒もおきない。でも、これは偽装になるのだと霞が関は言う。一方、最初からギリギリの9日に設定したB社はおとがめなし。なんだかおかしな話だとは思いませんか》

 10日で腐敗が始まる場合,安全に食べられる期間は9日である.田中氏も引いている『食品期限表示の設定のためのガイドライン』によれば,これに1よりも小さい安全係数を乗じて賞味期限を決めなければならない.この安全係数は,その食品の品質のばらつきを示しており,また賞味期限の短い食品では小さな値が採用される傾向にある.
 参考までに『ガイドライン』中の該当部分を以下に引用する(太字部分).
(2)食品の特性に応じた「安全係数」の設定
 食品の特性に応じ、設定された期限に対して1未満の係数(安全係数)をかけて、客観的な項目(指標)において得られた期限よりも短い期間を設定することが基本である。
 なお、設定された期間については、時間単位で設定することも可能であると考えられることから、結果として安全係数をかける前と後の期限が同一日になることもある。
 例えば、品質が急速に劣化しやすい「消費期限」が表記される食品については、特性の一つとして品質が急速に劣化しやすいことを考慮し期限が設定されるべきである。
 また、個々の包装単位まで検査を実施すること等については、現実的に困難な状況が想定されることから、そういった観点からも「安全係数」を考慮した期限を設定することが現実的であると考えられる。

 田中氏の例では,A社は自社の品質管理の実力に照らして,安全係数に0.5あるいは0.6を採用した.一方B社は自信があって0.9を採用したということになる.
 さて《A社は5日目に売れ残り商品の表示を7日に書き換えてしまった》とすると,A社は売れ残り商品の安全係数を根拠なく勝手に0.8に変更したことになるが,こんなことをするとA社の実力からして食中毒の危険性が生じる.従って行政はこれを期限表示の偽装であるとして,改めるよう指導するのである.つまり田中氏の言う《衛生上は問題ない、食中毒もおきない》は嘘である.
 《一方、最初からギリギリの9日に設定したB社はおとがめなし》も嘘.食中毒の危険性を回避するためにガイドラインは《ギリギリの9日に設定》しないよう要求しているからである.《なんだかおかしな話だとは思いませんか》と氏は言うが,嘘を積み重ねればいくらでも変な話は作ることができる.
 実際には,過剰に安全係数を低く設定すると,返品率が高くなる等,競争上不利になる.といって科学的根拠に基づかずに安全係数を高く設定すると,食中毒の危険性が生じ,事故が発生すれば営業停止になりかねない.そんなこんなで,似たような食品の安全係数は似たようなものになり,0.7~0.8くらいにするのが普通である.

★《次から次へと出てくる偽装表示問題に大騒ぎしているみなさんは、今年のクリスマスケーキやおせち料理はどうするのでしょうか。クリスマスケーキは24日1日だけで何百万個と売れるわけですから、とても前日には作り切れません。店頭に並ぶ商品のほとんどは作り置きしたものになりますが、製造年月日はいったいいつなのか》

 大量生産する大手洋菓子メーカーではクリスマスケーキを冷凍して保存し,解凍した日を製造日としている.解凍した日を製造日としても構わないためには冷凍保存期間をどれくらい以下にしなければいけないかというデータは洋菓子メーカーが持っているはずである.
 このような製造方法は衛生的に問題なしとして行政が認めているところであり,ウェブで調べれば簡単にわかる公知の事実でもある.それをいかにも何か問題があるかのように《製造年月日はいったいいつなのか》と言うのは,無知を暴露していると言わざるを得ない.

★《コンビニで買ったおにぎりの消費期限が翌日の午前3時だったとします。でも、買った日の午後1時から夕方まで暑い車の中におきっぱなしだったら? 消費期限内だからノー・プロブレームですか?》

 消費期限はメーカーが科学的試験を行った時の温度帯で保存された場合の期限である.暑い車の中に長時間置きっ放しにしたら,その消費期限は保証されない.当たり前だ.「ノー・プロブレーム」のわけがない.非常識もここまで来るとバカである.

★《このように、今の制度は売った側、買った側双方のあいまいな甘えの上に成り立っているんです。商品がどういう状況で製造され、どんな含有物がある場合に、消費期限・賞味期限はどのくらいなのか、沖縄と北海道での気温差をどのように表示に織り込むか、これらを何ひとつ決めていません。チェックするべき人間も、製造販売する人間も、買って食べる人間もみんな怠慢なんですよ》

 こうなるともう何を言っているのかわからない.支離滅裂である.《商品がどういう状況で製造され、どんな含有物がある場合に、消費期限・賞味期限はどのくらいなのか》を,保存条件と共に示したものが消費期限あるいは賞味期限の表示に他ならないからである.食品の表示のどこを見て《何ひとつ決めていません》と言っているのか理解に苦しむ.
 次の《沖縄と北海道での気温差をどのように表示に織り込むか》には呆れる.比較的保存性の良い食品の場合,賞味期限はキッチンの冷暗所を想定して試験することが多く,このように製造する側は,表示が消費者の役に立つようにと考えているのであるが,メーカーの想定外の常識はずれの条件で保存する,例えば沖縄で屋外に食品を放置するような人の面倒までは見切れないのである.まして《おにぎりを買った日の午後1時から夕方まで暑い車の中におきっぱなし》にするなどは,する人間が非難されるであろう.そんなのは食って腹をこわしても自己責任に決まっているではないか.
 《チェックするべき人間も、製造販売する人間も、買って食べる人間もみんな怠慢なんですよ》と言うが,怠慢なのは食品について知識もなく調べもせずに,また事実をねじ曲げて放言する田中氏の方である.

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