新生姜の味噌漬け
少し前からスーパーの店頭に新生姜が出ている.
私はこの季節になると,新生姜の味噌漬けを作るのが長年の倣いだ.
古根 (ひね生姜) でも作れるが,香りは新生姜のほうがよいように思う.
野菜加工食品の棚にはポリ袋入りとか食品パックに包装した「生姜の味噌漬け」と称するものが売られているが,あれは感心しない.
アマゾンにも同類の「生姜の味噌漬け」が出品されているので,下に商品説明ページをスクリーン・ショットで例示する.

これが気に入らない理由は,使われている添加物である.
同ページには「重要なお知らせ」が載っているので,下に引用する.
《原材料・成分
生姜、漬け原材料(みそ、醤油、砂糖、みりん、醸造酢)、調味料(アミノ酸等)、酸味料、保存料(ソルビン酸K)、(原材料の一部に大豆、小麦を含む)》(引用文中の文字の着色強調は当ブログの筆者が行った)
現行の食品添加物の表示方法における代表的な欺瞞が《調味料(アミノ酸等)》である.
原材料として,旨味を十分に含んでいるはずの調味料《みそ、醤油》と《みりん、醸造酢》を使用しておきながら,屋上屋を重ねるように調味料として《(アミノ酸等)》を使用している理由はなにか.
実はこの《調味料(アミノ酸等)》は一般的な日本語の「調味料」ではないのだ.
食品添加物製造会社の中には,企業サイト中で《調味料(アミノ酸等)》が調味料であると力説している会社が見られるが,加工食品の製造者が《調味料(アミノ酸等)》と表示してもよい添加物を使う理由はただ一つ,当該食品中の微生物の繁殖を抑制することである.
微生物の繁殖を抑制する物質の一つに「グリシン」があるのだが,これがアミノ酸の一種であることから,これにグルタミン酸ナトリウムや核酸などを加えた製剤にすると,これを使用しても「グリシン」と表示せずに済むのである.
なぜ加工食品の製造者が「グリシン」を「グリシン」と表示することを嫌ったのかはよくわからない.
ただ,かなり昔の昭和後期のことだが,食品添加物製造者が,グリシンにグルタミン酸ナトリウムや核酸などを混合した製剤を開発して「これを使えばグリシンと表示せずに「調味料 (アミノ酸等)」と書けばいいのですよ」とのセールストークを加工食品製造者に対して行っていたことは知っている.
当時は消費者の食品添加物に対するイメージが非常に悪化しており,食品の原材料表示欄において見せかけであっても食品添加物の数を減らしたいという加工食品製造者の思惑があり,そのため加工食品業界と食品添加物業界がこぞって行政に働きかけた結果,《調味料(アミノ酸等)》という面妖な表示方法が編み出されたのであった.
私のように会社員時代に食品業界にいた人間からすれば「イメージの悪い酸味料とか保存料のソルビン酸カリウムを使って原材料として表示しているのなら,もう一つグリシンを表示したってどうということはなかろうが」と当時思ったのであるが,食品添加物業界はなんとしてもグリシンがあたかも調味料であるかのように消費者に思わせようと腐心した.(実際のところ,グリシンの味は旨味ではなく,むしろ食品の味を損ねるアミノ酸だったのであったからだが)
酸味料もグリシンと同様に保存性を高めるために使用されるが,これまた食品の味を損ねることで知られる添加物だ.
酸味料は使わずに醸造酢でなんとかできないのか.
そしてさらにソルビン酸カリウムがダメ押しとして添加されている.
私は,食品の保存性を高めるために必要ならば食品添加物の使用を容認する考えの持ち主ではあるが,上に例示した商品のように《調味料(アミノ酸等)、酸味料、保存料(ソルビン酸K)》と添加物三点セットが表示されているのを見ると「ああこの業者は製品を作るにあたって,何も考えず工夫もせずに漫然と添加物メーカーの言いなりになっているのだな」と思う.
しかも,原材料表示に偽装が疑われる.
というのは,生姜の味噌漬け (醤油併用も可) は本来,上の商品画像のようなオレンジ色はしていないものなのである.
これは,自分で生姜の味噌漬けを作ってみればわかるが,本来は褐色である.
しかるに,あからさまにオレンジ色になっている例を下に示す.


この「生姜みそ」は,アマゾンに出品されている商品には原材料表示がないが,楽天には掲載されているので下に引用する.(引用元のURL)
《調味料(アミノ酸)》とはグリシンのこと.これに加えて酸味料と保存料 (ソルビン酸カリウム) の三点セットが使用されている.
さらに注目すべきは《着色料 (黄4、黄5、赤102、赤106)》である.
《漬け原材料【アミノ酸液、醸造酢、食塩、みそ】》からわかるように,これは生姜を「浅漬けの素+味噌」に漬けた「生姜の浅漬け」である.
しかしホントは「生姜の浅漬け」では色が白っぽく,この商品ページに書かれている《昔から愛され続ける伝統の生姜の味噌漬け》が嘘になるので,食添色素でオレンジ色に染めているのだ.
鮮やかなオレンジ色にした理由は,本来の色である褐色では「映え」ないからだろうが,着色料の使用を喜ぶ消費者も愚かではある.
楽天の商品ページに掲載されているこの製品のユーザーの声に次のようなものがある.

古根 (ひね生姜) で作った本来の生姜の味噌漬けは《茶色のクタッとしたもの》なのだが,上のレビューを書いた購入者は,浅漬けの素で味付けし色素で染めたものを,味噌漬けだと思って食べて喜んでいるのだ.物事を知らないということは悲しいことである.
さて《茶色のクタッとした》生姜の味噌漬けの例も示そう.
私の郷里の群馬県には「たむらや」という地元では有名な漬物の店がある.(公式サイトURL)
この会社が製造している生姜の味噌漬けは茶色なのだが,原材料表示は以下の通りである.(引用元URL)

着色していないからといって安心はしていられない.
これは確かに味噌漬けではあるのだが,糖類,醤油,米発酵調味料 (たぶんみりん風調味料だろう),なんだか不明の発酵調味料,酵母エキス,そしてお馴染みのグリシンと酸味料が入っている.
さらに,酢酸ナトリウム,pH調整剤も入っている.
ここまで人工的な食い物を私たち消費者はどう評価すればいいのだろう.
私は,漬物というものは,旬の野菜で季節ごとに拵えればいいと思う.それがおいしい.
というわけで本題に入る.
冒頭に《私はこの季節になると,新生姜の味噌漬けを作るのが長年の倣いだ.古根 (ひね生姜) でも作れるが,香りは新生姜のほうがよいように思う》と書いた.
生姜の味噌漬けは,新生姜で作るに限る.これがおいしい.
以前は麹味噌だけで作っていたのだが,銀鱈の西京漬けを作った時に買った白味噌が冷蔵庫に残っていたので,これと麹味噌を合わせ味噌にしてみた.
すると,これが単味の味噌よりもうまかったので作り方を下に紹介する.
まず新生姜の中くらいのものをよく洗い,茎の部分を切り落とし,あとは繊維を断ち切るように一口大に適当にカットする.
次に
・マルコメ「プラス糀 生みそ 糀美人」
・(株)西京味噌「京の彩」
大抵のスーパーにあるこの二つの味噌を,目分量でいいから大さじ二杯くらいずつ等量混ぜる.
小さなポリ袋に合わせ味噌と新生姜を入れ,手でよく揉む.
これを冷蔵庫のチルド室に入れ,数日保存する.
四日か五日くらいでおいしくなるが,少しカットして味見し,好みの味加減になればよい.
味噌は洗いおとしてもいいが,味噌まみれ状態がおいしいと思う.
グリシンだとか酸味料だとかは使っていないから雑味はなくておいしいが,日持ちはしない.
しかし新生姜一個分だからすぐ食べきってしまうので,これは無問題.
食べてしまったら,また新生姜を買ってきて新しい味噌に漬ける.
そうこうしているうちに,店頭から新生姜が消える.
そしたらまた来年の新生姜の季節を楽しみに待つのである.
山田風太郎の「あと千回の晩飯」に倣えば,私は死ぬまでにあと何回,新生姜の味噌漬けを食べることができるか.
炊いた熱い飯を,出来立ての味噌漬けで食べながら,しみじみとしているのである.
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